【文スト】続・優しい殺人鬼 【森鴎外】

　１８時 ページ25

――「特に、銀さんが選んでくれた清楚なワンピースも素敵ですが、広津さんが選んでくれた“ValkyrieStyle(ワルキューレスタイル)”という服も素敵で、それで、それで……」


夢中になって今日の思い出を話す私の言葉に、静かに頷く鴎外さん。その顔は実に満足そうだ。


「その後、スイーツを食べに行ったんです。善哉なんですけど……」
「ゼンザイかぁ……」
「…………どうかしたんですか？」


意味深長に呟く彼に思わず疑問の声をあげる。


「特にこれと言って理由は無いよ……ただ、私も餡が好きで汁粉などをいただいたりするのだが……いや、そういうことではなくてね……」


言おうか、言うまいか。
少し迷ったように口を動かした後、静かに言葉を吐く。


「“元部下”が、善哉をよく紹介していたことを思い出してね。咖喱も好きだったかな……混ぜ、玉子入り……いや、生卵が乗ったものだったかな？」
「鴎外さん？」


すっかり我を忘れて思考を巡らす彼に抑止の声をかける。すると、はっと我にかえり恥ずかしそうに笑みを浮かべて「それにしても」と話を戻す。


「黒蜥蜴とスイーツ、か。当然、広津さんも食べたのだろう？」
「勿論です」
「……広津さんは喫煙者なのに、珍しいこともあるんだねえ」
「えっ」


――キツエンシャ？


「そうだよ。“好きなもの”に煙草を挙げるぐらいだから、余程好きなのだろうね」


そう言ってニコリと微笑む顔に悪意はない。
最近のお店はどこも全席禁煙だ。確か、善哉を食べた場所もそうだった。もしかして――


「もしかして、無理して付き合ってくれたのでしょうか……？」


冷や汗が出る。
何かとんでもないことを仕出かしたのではないか？


「それは無いと思うよ」


私の心配を、鴎外さんが一蹴する。


「食べた、ということは彼も“その気”だったのだろう。本当に吸いたいのなら断って店の外にいるだろうからね」


　


(旧知の仲)

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