二面性ゴースト【浦/島/坂/田/船】 (ページ8)

今日:16 hit、昨日:1 hit、合計:66,352 hit

＊ページ8

　＊＊＊

　悪い人だからこそ好きになる。少し背徳的なスリルにドキドキさせられる。それがいけないことだとわかっていても･･･それはアブノーマルであれ、一般的に理解はされている感情の一種だ。

　――――――だからって悪魔に恋に落ちる私も、相当だと思うけれど。

　出会いは三日前に遡る。
　王子と姫みたいな模範的な恋愛なんてしないまんま、私は両親の都合でとある伯爵との結婚が勝手に決められていた。

　まぁ別にいいけど。

　友人は恋愛結婚だった。
　ずっと連れ添っていた彼女の幼なじみと駆け落ちして、お互いの両親や慣習と丁々発止の末、真っ白でフリルが沢山ついたドレスを纏って笑っていた。
　
　羨ましいとは思わなかった。ただ、あぁ幸せらしいと思いながらバージンロードを歩く二人に乾いた拍手を送っていた。

　花束を受け取ったとき。
　満面の笑みの二人から、「Aも幸せになってね！」と言われたとき。
　･･･････私は上手く、笑えていただろうか？

　＊＊＊

　自室に戻り、天蓋付きベッドに腰を下ろして溜め息。このベッドも壁紙も絨毯も小物も棚も、“貴婦人らしさ”で固められていて気味が悪い。
　そりゃあ身分が格上の相手から求婚されたので自分の見てくれが姫らしくないなんて思っちゃあいないけれど、これが私なのかと問われたら間違いなく私は首を横に振る。

　ふと目を右に向けると、開け放しの出窓から吹き込まれた風が淡い桃色のレースカーテンを大きく膨らませていた。
　どうしようもなく不愉快になって、腰を上げて留め具でくくりつける。

「･･･あぁ、」

　綺麗な綺麗な、夜空。
　星なんてない。月なんてない。
　だけど、泰然と深い瑠璃を灯し続ける夜の闇は。

　不釣り合いかもしれないけれど―――こっちの方が、断然私らしい。

　仕方ないかとまた、溜め息を吐いて。
　名残惜しく天上のビロードをもう一度眺めた、その瞬間に。

　空とは違う黒に、気づいた。

　全ての光を吸収するその色は何故か艶やかに閃いて、

　どんどん、大きく―――――――――――

「･･･････････････････、は？」

　反射的に身を引いた私の残滓をかき消すように、それは飛び込んできた。