【センラ】愛の習性 / こんぺいとう。 ページ34
きっかけはとても些細なことだったと思う。小さな村の中で唯一の幼馴染と喧嘩して周りの大人を巻き込んだ。背の高いところから注意される怒鳴り声が恐ろしくて、逃げるように村から森へと走った。
…もう、真っ暗だ。
帰る気なんて先程までなかったのに、一人の心細さと夜の寒さ、知らない場所での恐怖が次第に広がっていく。来た道を引き替えそうにも一寸先は闇で動くことも出来ず、着々と縮む寿命をここで終えることを覚悟した。
────シャン。
鈴の音が聞こえる。三途の川を渡る前の儀式なのか、聴こえてはいけないものが聴こえているのか。よく分からないが鈴の音の後に白い毛並みの小狐が現れた。
「え、」
野生の狐をみたのは初めてで驚きのあまり一瞬の声しか出せない。こんな小さな可愛らしい見た目をしていても狸よりも肉食という一面をもつ狐に対して怯える。
あぁ、狐に食べられて死んじゃう運命だとは、思っても見なかったよ…!
ギュッと瞳を閉じていれば、小狐は鼻を鳴らして森の奥深くへと歩を進める。時より後ろを振り返っては鼻を鳴らす小狐。
「着いてこいって、こと?」
人の言葉を読み捉えたかのように小狐はそのまま進む。
「ま、待って…!」
このままついて行けば食い殺される可能性だって無くはないのにしがみつくようにその小狐の後を追う。
小狐だけをみて追いかけているととある洋館に辿り着く。
「あれ?……きつねもいない」
幻覚だったのか導かれるだけ導かれて立ちすくむ足。するとタイミングを測ったように今度は空から冷たい雨が降ってきた。パラパラなら木の下で雨宿りでも出来たのだが、地面を打つように降り出し雨雲が光出した所で洋館へ入る以外の選択肢を失った。
もしダメでも、玄関のところでちょっと雨をしのげればいっか。
コンコンコン。
控えめのノックを3回。屋敷に響くようになったノックがこの家の主に届いたのかガチャリと大きな扉が開いた。
「…すみません、道に迷ってしまって」
駄目元で数回ノックをして出迎えてきてくれたのは、若い男性。日本では余りみない服装。どこか18世紀を感じさせる佇まいではあったが、その衣装は黄金色の非対称の髪である彼にとても似合っていた。
先程の言葉をかけ、どうか、雨が止むまでの間だけ屋敷に居れてはくれないかとお願いした所、快く引き受けてくれた。
「い、良いんですか?」
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sakako(プロフ) - え、え、好きです…!どタイプです!!素晴らしいお話たちを読ませてくれてありがとうございました! (2019年11月2日 12時) (レス) id: d08b40b16f (このIDを非表示/違反報告)
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