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「お前、ただでさえそいつ持ってるから指名手配されて血もまともに吸えてないのに、そいつ保持する意味がわかんねぇんだけど」
「……え?」
「あ、そっちは知らなかった感じ?いいよな、アンタはお気楽で」
静かな冷笑と冷たい声が痛かった。
それよりも坂田さんのことを知らないことに背筋が凍った。
彼は穏やかに微笑むと、するりと私の頬を撫でる。
「ええよ、もう決めてるんよ。Aの一生はおれのものにして側に置いとくって」
「…随分気に入ってんだな」
「当たり前やろ」
次に猫目さんが私に向けた眼差しはどこか悲哀めいていて、哀れむような表情だった。
「お前、なんか坂田から定期的に貰ってるものとかねえ?」
「……定期…いちごの、飴」
「…はああ、なるほどね。アンタさ、それ」
その人が口を開いたその瞬間、坂田さんがただ一つぱちんと指を鳴らした。
バチンっと暴力的な音とともにその人が消え失せる。
目を見開く私を目の前に坂田さんは、そっと私の頬を両手で包んで目を合わせる。
「飴にはな、…おれの血が入ってたんよ」
「……え?」
「だからAはもう純粋な人間じゃない。…ごめんな、もう手放せなかった」
柔らかな笑顔がどこか寂しげで。
ああ、手放せないのは君だけじゃないのに。
もう離れられないのは、こっちの方なのに。
「無理やりにでもおれのもんにしたる」
「……元から、坂田さんのだよ」
あのいちごのキャンディみたいな甘さに呑まれたら、もう後戻りできなくなってしまった。
ずっとずっと、君のもの。
ねえ、
「愛しとるよ」
「…私も」
甘い毒に侵されて、扉の空いた籠から出られなくなったのは、どっち?
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sakako(プロフ) - え、え、好きです…!どタイプです!!素晴らしいお話たちを読ませてくれてありがとうございました! (2019年11月2日 12時) (レス) id: d08b40b16f (このIDを非表示/違反報告)
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