【うらたぬき】まだ知らぬ、君の事。/ *雪乃* ページ2
夕日が沈む頃、あの大森林からは、毎度のように黒いモヤがもくもくと上がる。
煙でもなく、どちらかと言えば雲に近いような見た目の。
いつも、ちょうど私が干した服を回収する頃。
「今日も…」
あぁ、今日もいなくなっちゃたかもしれない。また、奪われてしまったかもしれない。
「どうか、苦しまずに…」
絶対に忘れない。
あの時、目の前で _
*
「たぬきさん…!」
甲高い愛らしい声で鳴いた目の前のたぬきは、泥だらけだ。
「痛いとこなぁい?大丈夫?」
恐る恐るもふもふであろう、小さな頭を撫でる。怖がってはいるが、だんだんと気持ちよくなってきたみたいで、ころんと音がつきそうな程に、寝転がった。
「あーぁ、もっと汚れちゃうよ!」
リラックスしてるたぬきを抱きかかえた。
瞬間 _
「ヒッ…!!」
痛い。腕がヒリヒリと痛む。
細く入った切れ目からは、あまり得意ではない紅色が滲む。
ふと、足元を見れば1枚の緑の葉。よく見れば、縁に先程見た紅色。
「はっぱ……」
「そ、葉っぱ。俺の葉がお前を切ったんだ。」
そう聞こえた声の方に目を向ければ、頭にまるで本物のような耳をつけた、深緑の浴衣を着こなした…
人…?
いや、
「たぬ、き…?」
「そいつを返せ。俺の家族だ。」
「かぞく…?たぬきさん、お兄ちゃんのかぞくなの?」
そう言われて、今まで淡々と放たれた冷たく感じる言葉は、すべて、私の腕の中にいるこの子の為だと確信した。
「あの、お兄ちゃ…」
「餓鬼はとっとと帰れ、目障りと耳障りでしかない。」
「この子!怪我、してるから、だから!」
「るっせぇなぁ、分かってる…。ほれ、おいで。帰ろう。」
そんな風に笑うんだ。くしゃっとした優しい笑顔は、やっぱり家族に向けたものなんだろう。
そっと伸ばされたたぬきのお兄ちゃんの腕がとっても羨ましかった。
お母さんもお父さんもお兄ちゃんも、どこかへ行ってしまった。空の上で私を見てるってとなりのおうちのおばちゃんに言われた。
「あっ……」
寂しかった。自分の手から離れていく温もりに、そんな感情を抱いてしまった。
森に住む、ただの狸にでさえ、暖かさを求めてしまうのだ。
「さ、とっとと帰れ。人間の娘がいていい場所じゃねぇよ」
「お家、誰もいないよ、」
「あぁ? なんだ、出かけてんなら尚更だろ、帰れ。」
「みんな、お空の上だよ。」
そう呟いた時、異様に冷たい風が吹いて、傷口がヒリヒリと傷んだ。
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sakako(プロフ) - え、え、好きです…!どタイプです!!素晴らしいお話たちを読ませてくれてありがとうございました! (2019年11月2日 12時) (レス) id: d08b40b16f (このIDを非表示/違反報告)
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