＊ ページ30
後ろから、櫻井先生がさっきより強く抱きしめる。
先生の香りが強くなる。
胸やけしそうだ。
でも、離れたくない。
「……今日、授業中俺のこと見てたでしょ」
先生はいつもこれを聞く。
最初は「見てません」って否定してた。
でも、最近はもう開き直って「そうですね」って言う。
先生はそれを面白がる。
「そうですね」
「やっぱりね。視線を感じました」
「字、汚いなぁって」
「おい、見てたのは俺を通り越して黒板かよ」
「熱心に聞いてましたよ、授業」
「そりゃありがとうございます」
先生が以前「字、上手くなりたい」って言ってたことを思い出して、そう言ってみる。
嘘だよ。
見てたのは黒板じゃない。
ずっと、先生を見てた。
襟足大分伸びたなぁって。
明朗快活な話し方だなぁって。
……今日もカッコいいなぁって。
「前から90点台だったけどさ。成績も平均で５点以上伸びたよね」
「……多分先生のお陰です」
「マジ？そう言ってもらえると授業やる気が出まーす」
クハって笑ったと思ったらスッと香りが離れた。
大好きな先生の手も、目の前から消えた。
「……来年も、もし俺のクラスなったらさ」
先生が私の前に来た。
手首を捕らえられて、向かう先はいつもの机。
先生が、椅子じゃなくて机の上に腰かけた。
私の手首を、そっと引く。
先生の顔の横に、自分の顔が吸い込まれていく。
……あ、またあの香りに包まれる。
「クラス委員なってよ」
「……はい」
「もし、担任じゃなかったらクラスの国語係ね」
「……はい。でも、先生が担任でも、現文担当でも無かったら？」
そうなるともう櫻井先生には会えなくなる。
季節はそろそろ春休みの時期。
……万が一のタイムリミットは、近い。
「……そうだなーその時は……」
会わない、なんて言わないで、先生。
今までの自分がどれだけ恵まれていたかなんて分かってるから。
ここに来ることだけは許して欲しい。
「……俺の彼女になろっか」
「え？」
「ん？俺の彼女。だめ？」
自分でも分かりやすく、狼狽えた。
一度、先生には冗談か本気か、「俺のお嫁さんに」なんて言われたことはあるけど。
でも、それは現実的ではなくて、自分の中では冗談だと消化していた。
……彼女だなんて。
「彼女……」
「彼女。こんな風にぎゅーってしたり、キスしたり、あーあと」
「言わなくていいです」
「ん？何想像したの？ん？ん？」
肩を持たれて、先生が顔を覗き込んでくる。
……ふざけたその顔も、好き。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1288人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
cori(プロフ) - 古川さん» コメントありがとうございます！ええっ、そこまで言っていただけて嬉しいです…！実は私もこの5つの話の中で大野先生の話が一番好きで笑 だから余計嬉しいです！ (2019年8月11日 21時) (
レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
古川(プロフ) - 大野先生の話めっっっちゃ好きです……こういうのが読みたかったんです……私の需要を満たしてくださり本当にありがとうございます(スライディング土下座) (2019年8月11日 1時) (レス) id: ae72d41905 (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - mayuさん» mayuさんありがとうございます(*^_^*)ほんと天邪鬼で手に負えませんね！笑 櫻井先生、もう少しお待ちください！ (2019年7月7日 13時) (レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - 二宮せんせー、ホントに天の邪鬼なんだから…でもそこがすき！(笑)櫻井先生の長編嬉しいです！楽しみにしています！！(^^) (2019年7月6日 21時) (レス) id: 862aa3f0aa (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - kana59さん» コメントありがとうございます！そう言っていただけるととてもやる気出ます〜！！あとはタイトルさえ決まれば出せるのですが…お待ちください！ (2019年7月6日 0時) (レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：cori
| 作成日時：2019年4月19日 21時
