真選組血風帳弍【沖田総悟】 (ページ5)

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第53訓女は一度捨てた武器を拾うページ5

「おいテメェらどけ」

「退けません」

Aは一度も振り向く事なく松平が用意していた車に乗り込んだ。

「お前達隊長命令が聞けねぇのか」

「Aさんの命令です」

「おい、総悟やめろ！」

沖田が刀を抜き緊張が走る中、山崎が運転する車は発進する。
流石に隊士達に斬りかかれないのか、睨み合ったまま車はみるみる間に佐々木邸の周りの森に飲み込まれていった。

「隊長より副隊長命令が大事とはな」

「Aさんはもう副隊長じゃありません。だから女の子の最後のお願いを聞いただけです」

沖田は刀を収めるとため息をつく。
元よりAの決意の硬さから引き止めるのは無理だと思っていた節があるのだろう。

「Aの振袖綺麗だったな」

「はい。お綺麗でした」

隊士達は涙ぐみながら返事をする。
雲のない空は沖田に不意にあの日の天気の話を思い出させた。

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山道を車が走る。

「山崎……いい天気だね」

「涙で天気なんて見えてないでしょ」

「天気の話が思い出に残る事だってあるよ」

今回のあらましはこうだ。
元より有名だった女隊士のAに目をつけていた京都の公家が真選組没落の機会に乗じて、支援の交換条件として人質を要求。

それを聞いたAが真選組の現状を打破すべく1人で返事をしてしまった。

「Aちゃんは、器用すぎて不器用だよ」

「そう？何にも考えてないだけだよ別に」

「嘘ばっかり」

最寄りの駅までは少し遠い。バックミラーを確認するとAはまだ涙を流していた。

「涙は女の武器だね本当に。俺はあの別れ方は良くなかったと思うけど」

「総悟には嫌な女としてキッパリ忘れてもらうのが1番だよ。隊士達には大変な思いさせちゃうかもだけど」

Aは真選組の隊士として年頃の女としての生き方を捨てた。
しかし今、その真選組を守るために女の武器を携え京都に行く羽目になるとはなんの皮肉か。

「ちゃんと連絡してね。たまにスマホの存在忘れてるから」

「ハジメテの時は大変ご迷惑をおかけしました。ま、あれのおかげで身につけた手練手管を公家様には大披露しちゃうぞ」

「俺はもう止めないからさ。だから強がらないで。副長や沖田隊長じゃないからね」

「お見通し顔ウザ……でもありがと」

「どういたしまして」

「まぁ、でも本当に私はいいんだ。寂しいし、名残惜しいけど。それで皆んなのことが、総悟のことが守れるなら」

だから、Aは箱に入った指輪を両手で包み込みながら続ける。

___だから、どうか真選組のこの先に光が在らんことを。