叶わない恋 《ベニマル》

第11話　ガゼル王 ページ13

「物々しいのは許せ。こうでもせぬと出歩けぬのでな」

　あたしを除く鬼人は、武装国家ドワルゴンの王・ガゼルに向け怒気を向けていたが、挨拶代わりの発言だと理解できないらしい。人の姿に変化したリムル様に切っ先を向けて、さらに我々を煽(あお)ってくる。

　若様。兄貴。二人共、もう少し忍耐しよう。

　王は、『人となりを判断するのは、剣一本で良い』と言う。ドライアドの立ち会いのもと真剣勝負になるが、結果から語るなら、リムル様を認めた形になる。そして、『剣鬼殿』と呼ばれたハクロウに親しげに話された後、王は素と思われる軽い口調と態度で、何故かあたしに目を向けた。

「そなた。名は？」
「Aと申します。ガゼル王」
「そうか。俺は、貴女も気に入ったぞ。A。鬼人の中で、一人だけ殺気を向けていなかったからな」
「恐れ入ります」

　わはは、と豪快に笑い、背中を遠慮なくばしばしと叩く様子に、若様は何か気にしたのか、焦りの表情を浮かべる。その心情など察する事ができないまま、騎士団一行を含め、町へ案内した。


　リムル様の隣で水分を一切摂らずに待機していると、ドワルゴンの後ろ盾を得る事がさらりと決まり、国名も求められる勢いになった。

「なぁ、A。どんな名がいいと思う？」
「大抵は、神話や先住民から伝えられてきた語源。また、当時の王や、陸地を発見した者の名があてられる事があります。なので、リムル様の名を用いるのが良いかと」
「え!?」

　彼は、てっきり止めてくれると思ったのだろう。リムル様にとって、あたしはどうやら最後の砦らしいが、こんなに常識と理性を持ったスライムは他に存在しない。

「さて、Aも飲め！ せっかくの宴だ。酒の一杯くらい良かろう」

　ガゼル王が突き出してくる酒瓶を前に、迷う暇など無い。長く間が空くほど、こちらの印象は悪くなるからだ。

「いただきます」

　まさか、当の主であるリムル様よりも先にお酌をされるとは思いもよらなかったが、致し方あるまい。酒が注がれた杯を一口飲み、ふと曾祖母から聞いた記憶を思い出した。

(紬が大人になったら、酒を酌み交わしたいな)
(まぁ。あなたったら気の早いこと)

　幼少期に、父上は晩酌をしながらそう言っていた。

(嫁に行く姿を見てみたいな)
(あなたの場合、泣いてしまうわね)

　大鬼族の両親は、当分先の嫁入りを心待ちにしていた。

「お酒って…、美味しいんですね」

　涙腺が緩みそうになるから、お酒は苦手だ。

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