叶わない恋 《ベニマル》

第12話　魔王ミリム ページ14

「お前、気に入ったぞ！」

　ガゼル王に引き続き、魔王ミリムのお気に入りになったAは、がっしりと手を握られ、みしりと音が鳴った。
　今回は彼女の『挨拶』宣言を信じ、攻撃を加えなかったからだ。回復薬を飲むAに焦り、壊れ物を扱うようにそっと頬に手を添えている。

「そんなに人に触れるのが怖いですか？」

　添えられた手の上に、Aの手が重なる。

「当たり前だろう？ 玩具(おもちゃ)が壊れたら、ワタシが困る」

　すると、護衛の目つきと表情が変わり、添えられていた手も容赦無く引き剥がした。

「我々は玩具(おもちゃ)ではありません。失礼」
「あ！ 待て、A！」

　魔王の言葉を無視して背を向け、魔国連邦の方向へ足早に歩を進める。彼女の言動に、全員が魔王の逆鱗に触れないか肝(きも)が冷えたが、子供っぽいミリムはAの肩を掴んだ。

「待つのだ、A！」
「魔王と言えど、それが人に物を頼む態度ですか？ 人を怒らせておいて、謝罪の一言も無いとは。『自分は魔王で強くて偉いから、どんな態度を取っても良い』は、理由になりませんよ？」

　弱肉強食の魔物の世界で、自分よりも圧倒的に魔素量の多い者に口答えするなど、自ら命を絶つに等しい行為だ。

「謝る！ 謝るから！ な？」
「それは謝罪の言葉ではありません」
「ごめんなさい！ …これで、良いか？」

　その光景は、悪い事をした子供が必死に母に許しを請う姿を彷彿とさせる。目をつぶったままの容姿の幼い魔王を、そっと抱き寄せたAは、耳元で優しい声音で告げた。

「許しますよ。ミリム様」

　抱き締め返そうとしたミリム様は勢いよく両腕を広げ、先ほどの失敗を思い出し、かなり力加減をして背中に腕を回した。


　リムル様と同じく、魔王ミリムを手懐けたAは、食堂の厨房でゴブイチと共に『カレー』を作っている。食事中に甘い蜂蜜から高級品の砂糖の話になり、女性陣による『スイーツ同盟』が結成された流れで、Aが強引に引っ張られた。

「Aも舐めてみろ！」

　小皿から指先で一掬(すく)いしたそれを口先に近づけ、ミリム様の小さな手を両手で包みこみ、素直に従う。

「ひゃっ!?」
「どうされました？ 『舐めろ』と言ったのは貴女(あなた)でしょう？ お嫌ならやめますが」
「い、嫌だ……。やめるな」

　肘まで腕捲(まく)りをして伏し目がちに微笑み、身長差で涙目の魔王を見下ろす姿は、まさに妖艶だ。

第13話　イケメン女子→←第11話　ガゼル王

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す