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ちょうど月が隠れてしまったのか廊下がすうっと薄暗くなる。
コツ、コツ、と足音が反響しひどく静かな夜。
やっぱりと言うべきか目的の人はそこで一人、煙を燻らせていた。
｢タケさーん、徹夜っすか？｣
｢倉元か...｣
その目はこちらを見ることなく、組まれた足先をぼんやりと見つめている。
傍らには百均ライターとピンクのpianissimoがちょこんと置いてあった。
｢まだ女物吸ってたんですか｣
｢一番吸いやすいんだ、ほっとけ｣
｢一本もらいまーす｣
ジッと火をつけ息を吸い込むと未だに慣れないラズベリーがふんわりと充満する。
何年か前、この甘ったるい香りをさせて仕事に来た時には女の匂いかな、なんて勘違いしたのを思い出した。
意外にもほどがある、それは何年経っても同じで思わず笑みがこぼれた。
しかしいつもなら｢何笑ってんだ｣なんて言われるのに今日のタケさんは幾分か上の空だ。
｢ひら、こ...さん｣
あの日の夜の電車の、Aの静かな悲鳴が脳裏をよぎる。
｢俺の入る余地なんてない、かぁ｣
ポツリと零れた呟きにタケさんの視線だけが向けられた。
けれどせめて、その余地がないのならAちゃんを泣かすなよ、なんて勝手な嫉妬がふつふつと湧いては消える。
タケさんはこのままAちゃんの気持ちに気付かぬふりを続けるつもりなのだろうか。
そもそも彼女の気持ちを知っているのだろうか。
短くなったタバコを見下ろし、ひとつ決心と諦めがついた。
ジュッとそれを灰皿に押し込みタケさんの前に仁王立ちすると、多少驚いた目が何か言いたげに見上げてくる。
なるべく冷たい目をして、口角を釣り上げて、悪役っぽく言ってみた。
｢タケさんが守ってあげないんなら俺が喰っちゃいますからね、Aのコト｣
タケさんは数秒、唖然としたものの、しかし何かを決めたように目を閉じた。
そして
｢倉元、すまない。ありがとう｣
｢仮眠室っすよ｣
ぽつんと残された喫煙所で、まだタケさんの吐き出した最後の煙がたゆたっている。
俺の恋は、少し保留だ。
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翠雨 - 綺麗な表現で素敵だと思いました。平子さんいいですよね! (2018年9月17日 10時) (
レス) id: cf1baa01ef (このIDを非表示/違反報告)
駄郎(プロフ) - 恋は難しいさん» ぁぁぁぁぁぁありがとうございます！！！｡ﾟ(ﾟ^ω^ﾟ)ﾟ｡平子さん尊いですよね……(；＿；) (2017年8月3日 12時) (レス) id: d57e5a8b8d (このIDを非表示/違反報告)
恋は難しい - もともと平子さん愛してましたけど← もっと愛することができました。← (2017年7月16日 13時) (レス) id: 4df27568a3 (このIDを非表示/違反報告)
駄郎(プロフ) - 水素ちゃんさん» コメント本当にありがとうございます(Ｔ▽Ｔ)なんと嬉しいお言葉!!!もうど素人の処女作なので課題のたくさん残る作品ですがそう言っていただけると励みになります＼(^^)／ (2016年10月26日 8時) (レス) id: a48a1efcf5 (このIDを非表示/違反報告)
水素ちゃん - 丈さんが好きで読み 初めたのですが、繊細で綺麗な表現に凄く惹かれました。細やかな心情や情景描写で全35話とは思えない満足感でした。駄郎さんの作品の虜になりました^^ また機会があれば別の作品も是非拝見させて頂きたいです。 (2016年10月21日 1時) (レス) id: d7599aa8e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：駄郎 | 作成日時：2015年5月2日 21時
