玖拾玖 ページ6
小せェ。
ろくな抵抗もせず、腕の中にすっぽりと収まってしまった奴を見て、心の中で嘆息する。
こんな小さな体に、一体何れだけのものを溜め込んでいるんだ。
…全く、すぐに一人で突っ走って無理しやがって。馬鹿野郎。
「…なぁ、A。お前、今も大切な人がいるかァ?」
けれども胸の中にある確かな温もりを、心から愛おしいと思う。
「…うん、いるよ。」
「守りたいよなァ。俺達が守れなかった人の分まで、幸せな家庭を築いて年老いるまで生きて、幸せになって欲しいよなァ。」
はっとした表情で奴は此方を見つめた。涙の溜まった目を開き過ぎて、目ん玉がそのまま転がり落ちてしまいそうだ。
「どんなに泣いても悔やんでも死んだ奴は戻って来ねェ。だから、」
ぽろぽろと零れ落ちる涙を、笑って拭ってやる。
「何度だってお前と約束してやる。鬼舞辻無惨を必ず俺達で倒そう。もうこれ以上、鬼に誰かを奪われる悲しさを味あわせない為に。
愛する者の未来を、守る為に。」
優しく頭を撫でてやれば、微かな声で奴は答えた。
ありがとう、と。
「ごめん、実弥。取り乱した。」
「いや、途中から俺もわざと酷な事を言った。すまん。」
お互いに退いて、繁々と相手を眺める。どちらも土だらけで、互いにくすりと笑い合った。
「ほんと、泥だらけだね、私達。」
「他に誰も見てる奴はいねェから、気にする必要はねェ。」
「ふふ、それもそうだね。…ありがとう、実弥。」
目を細め、艶やかに微笑む彼女は、露を光らせ咲き誇る花の様に美しい。
やっぱりお前は笑顔が似合う。そんな恥ずかしい言葉は飲み込んで、代わりに満面の笑みを向けた。
「お風呂借りても良い? この後どうせ任務があるし。」
「あぁ、先に使ってくれ。食材はあるから、飯を作ってくれるとありがたい。」
「もう、仕方ないなぁ。…あ、本当はそっちが本命なんじゃないの?」
「…お前の作る飯は上手いからな。」
「どうしてこういう時は素直なのかなぁ。普段からもっと、い、イテテテッ、頬をつねらないで!!」
ポカポカと殴ってくる彼女を見つめながら、胸の中にじんわりと広がる温もりを噛み締める。
お前の笑顔を守ってやりたい。
同じ鬼殺隊員、まして柱でありながらそう思ってしまうことは、果たして罪だろうか。
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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時