玖拾捌 ページ5
見るも無残に砕け散った木刀は、既に投げ捨ててある。
彼に馬乗りになり、右腕を捻じ上げた所で 残った左手で左腕を固められ、膠着状態に陥っていた。
「俺の勝ちだなァ。」
「いや、どう考えてもこれは君の悪足掻きでしょう? さっさと負けを認めなよ。」
「いや、違わねェよ。」
次の瞬間、強く投げ飛ばされ地面に転がる。その上に素早く彼は覆い被さって、私の両手を片手でしっかり拘束してから言った。
「ほら、形勢逆転だろォ。」
「それさっきまで負けていたことを認めてるじゃないか。」
「そんな細けェことはどうでもいいんだよォ。ほら、さっさとあの鬼殺具の正体を吐けェ。」
「嫌だ、私はまだ負けていない。」
「ったく、何時までそんなしけた面してやがる。」
はっとして顔を背けようとしたが、残った左手で無理矢理顔を向かされる。
「逃げるな。」
真っ直ぐな藤色の瞳に全てが見透かされそうで、胸がどきんと波打つ。
「テメェ、俺と話しながらもずっと何処か上の空だっただろォ。全く、何もかも自分一人で背負ったような顔をしやがって。」
プチン、と何かが切れる音がした。
「君に何が分かる!!」
全力で拘束を抜け出し、驚いた彼の隙を突いて押し倒す。
「大切な仲間を、弟子を自ら手にかけなければならない苦しみが、君に分かる筈はない!!」
ぼろり、と大粒の涙が溢れ出した。
「“鬼に奪われる為にある人生”だと言われた。哀れだと鬼に蔑まれた。…例えそれが本心からの言葉ではないとしても、納得してしまう自分がいた。」
零れ落ちた涙が、ぽたりと彼の頬に落ちた。
「何度も、何度も強くなろうと心に決めた。血を吐くまで努力した。けれども、私はっ、」
あぁ、言ってしまう。自分の弱い所をさらけ出してしまう。けれども、溢れ出したものを止める術を、私は知らない。
「一体どれだけ失えば、この地獄は終わるの?」
涙でぐしょぐしょに濡れた顔を見せたくなくて、彼の羽織を両手で強く掴んだまま、その胸板に頭を押し当てた。
「…私は何時も、大切な人が危ない時に間に合わない。」
声を押し殺して、涙を流す。もう二度と挫けないと決めていたのに、もう崩れてしまいそうだった。
「そうか。それが、お前の本心なんだな。
ずっと、その言葉を聞きたかった。」
次の瞬間 逞しい彼の腕が、優しく私を抱き締めた。
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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時