検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:83,820 hit

陌肆 ページ11

宍色の髪が、夜風に揺れている。


「ねぇ、錆兎。どうしたの?」


岩の上で身動き一つしない少年の表情は、狐の面に隠され分からない。だが何を考えているのかは分かっていた。


『数日後に義勇が帰ってくるみたいだよ。その時、会ってみたら?』


「Aちゃんに言われたことを気にしているんだね。」


同じ岩に凭れかかり、動く気配すら見せない友に微笑みかける。


「最終選別の日から一度も姿を見せてないんでしょう?」




最終選別が終わり、義勇が鱗滝さんの家に戻ってきたあの日、錆兎は狭霧山で目覚めた。


状況を説明する前に彼は血相を変えて山を下り、彼等の元へ走っていってしまった。


…今でも、覚えている。


ごめんなさい、一人で帰ってきてごめんなさい。そう大粒の涙を流しながら叫ぶ義勇を、鱗滝さんが強く抱き締める。天狗の面の下からも、止めどなく涙が零れ落ちていた。


そして彼等の姿を呆然と見つめる、錆兎の後ろ姿。


掠れた声で、彼等の名前を呼んでいる。だがその言葉が届くことはない。恐る恐る伸ばされた手は、空を切る。


身が引き裂かれるようなその辛さは痛い程分かって、だからこそ何も声を掛けられなかった。





それから最終選別の日が来ると、義勇は毎年墓参りに訪れるようになった。


狭霧山の頂上付近に、鱗滝さんが作った私達のお墓はある。彼は其処で静かに手を合わせ、近況を報告してから帰る。


錆兎はその背中を、声を掛けることも無く、黙ってずっと見つめ続けていた。




「恐いんだ。」


不意に、錆兎は呟く。


「アイツが、鬼に対する憎しみで己を叩き上げてきた事を知っている。


だからこそ、もし俺が見えてしまったのならら、その思いが揺れてしまうんじゃないかと思うと、恐い。」


そう言った彼の体は、心なしか震えているような気がした。


「ねぇ、錆兎。」


岩を登って、俯いたままの彼の面を上げた。彼は何の抵抗もせず、黙って此方を見つめる。


「義勇はね、錆兎が思っている以上に大人だと思うよ。だってあの子達は、」


『ねぇ、真菰。錆兎に伝えて欲しいの。例え錆兎が見えようが見えまいが、私達の思いは決して変わらない。だって約束したもの。私達は、』


『「鬼をこの世から滅殺するまで、戦い続けると誓ったから。」』


「だからね、錆兎。貴方の心のままに従っていいんだよ。」


その言葉に、彼はまた俯く。


夜風がまた、月光に照らされる髪を揺らした。

陌伍→←陌參



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (64 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
126人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。