陌肆 ページ11
宍色の髪が、夜風に揺れている。
「ねぇ、錆兎。どうしたの?」
岩の上で身動き一つしない少年の表情は、狐の面に隠され分からない。だが何を考えているのかは分かっていた。
『数日後に義勇が帰ってくるみたいだよ。その時、会ってみたら?』
「Aちゃんに言われたことを気にしているんだね。」
同じ岩に凭れかかり、動く気配すら見せない友に微笑みかける。
「最終選別の日から一度も姿を見せてないんでしょう?」
最終選別が終わり、義勇が鱗滝さんの家に戻ってきたあの日、錆兎は狭霧山で目覚めた。
状況を説明する前に彼は血相を変えて山を下り、彼等の元へ走っていってしまった。
…今でも、覚えている。
ごめんなさい、一人で帰ってきてごめんなさい。そう大粒の涙を流しながら叫ぶ義勇を、鱗滝さんが強く抱き締める。天狗の面の下からも、止めどなく涙が零れ落ちていた。
そして彼等の姿を呆然と見つめる、錆兎の後ろ姿。
掠れた声で、彼等の名前を呼んでいる。だがその言葉が届くことはない。恐る恐る伸ばされた手は、空を切る。
身が引き裂かれるようなその辛さは痛い程分かって、だからこそ何も声を掛けられなかった。
それから最終選別の日が来ると、義勇は毎年墓参りに訪れるようになった。
狭霧山の頂上付近に、鱗滝さんが作った私達のお墓はある。彼は其処で静かに手を合わせ、近況を報告してから帰る。
錆兎はその背中を、声を掛けることも無く、黙ってずっと見つめ続けていた。
「恐いんだ。」
不意に、錆兎は呟く。
「アイツが、鬼に対する憎しみで己を叩き上げてきた事を知っている。
だからこそ、もし俺が見えてしまったのならら、その思いが揺れてしまうんじゃないかと思うと、恐い。」
そう言った彼の体は、心なしか震えているような気がした。
「ねぇ、錆兎。」
岩を登って、俯いたままの彼の面を上げた。彼は何の抵抗もせず、黙って此方を見つめる。
「義勇はね、錆兎が思っている以上に大人だと思うよ。だってあの子達は、」
『ねぇ、真菰。錆兎に伝えて欲しいの。例え錆兎が見えようが見えまいが、私達の思いは決して変わらない。だって約束したもの。私達は、』
『「鬼をこの世から滅殺するまで、戦い続けると誓ったから。」』
「だからね、錆兎。貴方の心のままに従っていいんだよ。」
その言葉に、彼はまた俯く。
夜風がまた、月光に照らされる髪を揺らした。
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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時