陌參 ページ10
「Aちゃんに好きな人はいないの?」
蝶が描かれた可愛らしい面を付ける少女が、目を輝かせながら前のめりに尋ねてきた。
「うん、いたよ。」
それでも男か!、と錆兎に飛び掛かっては吹き飛ばされる少年達の姿を微笑ましく眺めながら答える。
「えぇー、どんな人、どんな人っ!!」
「詳しく聞きたいなぁ、教えてー!」
「ふふっ、そうだね。…何時も太陽みたいに輝いていて、とても眩しい人だった。」
脳裏に蘇るのは、炎を象った羽織に、颯爽と鬼を狩る逞しい後ろ姿。
そして雲間から太陽が顔を出したような 晴ればれと温かく屈託のない笑顔。
何時までも色褪せる事のない、忘れる筈のない、彼が与えてくれた確かな温もりは今も胸の中にある。
「大好きだった。誰よりも、ずっと。」
けれども守れなかった。私が、間に合わなかった所為で。
「そっか。もうその人はいないんだね。」
真菰ちゃんは悟ってくれたのか、寂しげに微笑んだ。
「うん、ずっと遠くに行ってしまったよ。」
ぎゅっと拳を握り締める。あの日 目に焼き付けた彼の最期が、今も胸の奥深くに沈み込んでいた。
「本当にその人はAちゃんの事好きだったんだね!!」
不意にそう笑顔で告げた少女に、え、と大きく口を開けて固まる。
「その胸元に仕舞ってある髪飾りを貸してくれる?」
言われるがまま壊れかけたそれを差し出せば、少女は微笑んだ。
「これにね、いっぱい、いっぱい思いが籠もっているのが見えるよ。
Aちゃんのこと、大好きだって。」
満面の笑みでそう答えた少女の言葉に、強く胸が締め付けられる。
「……そっか。ありがとう。」
俯きながら、胸元でぎゅっと両手を握り締める。うっすらと目の端に溜まった涙は、視界をぼんやりと滲ませていた。
「ねぇ、その簪は誰から貰ったの?」
「え、あぁこれは同僚から贈られたの。何か見える?」
「ふふっ、籠ってるねぇ。」
「しかもこれ、無自覚かな。」
「義勇くん、頑張らないといけないねぇ。」
「ええと、どういう意味…?」
「「「ひみつー!!」」」
口を揃えてそう答えた少女達に、頬を膨らませながら つつき回すが声を上げて笑うだけで決して教えてはくれない。
その姿を、錆兎が寂しげに黙って見つめ続けている事には気が付かなかった。
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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時