肆拾參 ページ46
色鮮やかな電飾が眩しい屋台から威勢のいい呼び声が飛び交い、浴衣姿の男女や家族連れが賑わう。
「煉獄さん、お待たせしました。」
参道に並ぶ石灯籠の前で一人佇む彼の元へ駆け寄る。
「俺も丁度来たばかりだ! A、似合っているぞ。」
私が着ているのは、黒地に鮮やかな赤の薔薇をあしらった華やかな浴衣だ。ちなみに仕立ててくれたのは、例の三人姉妹である。
「煉獄さんもとても似合っています。何だか新鮮ですね。」
彼は献上柄の綿角帯に濃紺地の細かく麻の葉柄が入った浴衣だ。前回の燕尾服も似合っていたが、今回は比ではない。先程から道行く人々が此方を顔を赤くして見てくるのが証拠だ。
「A、少しいいか。」
「はい…?」
彼にも手招きをされ、傍に寄ると ぎこちない手付きで何かを左耳の上辺りに付けられた。
「これは…」
偶然近くにあった古物商の鏡に映る自身の姿を見て、目を見開いた。
それは、美しい真っ赤な薔薇の髪飾りだった。
「君に似合うと思ってな! つい先日買ってしまった。」
「…嬉しい。ありがとうございます。」
顔を綻ばせてそう答えれば、彼はそれはそれは嬉しそうに無邪気に笑った。
「うまい、うまい、うまい!」
「煉獄さん、たくさん食べますね。」
積み上がった空の箱を見て笑う。これは蜜璃さんといい勝負かもしれない。
「うむ、何時もはここまでは食べないんだがな! 何だか君と居ると食欲が沸いてくる!」
「私は食欲増進薬ですか。」
「君の作る料理は絶品らしいな! 是非食べたい!」
「それなら是非秋にでも来て下さい。芋を使った料理をご馳走しましょう。」
「楽しみだ!」
彼には作りがいがあるだろう。顔を綻ばせながら食べる彼の姿を想像して、笑みが零れる。
「絶好の場所があるんだ。そろそろ行こうか。」
口に含んでいた林檎飴を噛み砕き、差し伸べられた手を笑顔で取った。
草を掻き分け彼の後に続く。どうやら河原に向かっているようだ。
やがて辿り着いた場所の近くにあったベンチに二人で座り、空を見上げる。祭り特有の喧騒が遠くに聞こえた。
「俺がまだ小さい頃、一度だけ母上とこの場所に来た。」
彼の横顔は、何処か寂しげだった。
「此処から見る景色はとても綺麗で…是非Aに見せたいと思っていた。」
その時一筋の光が走り、轟音が夜を切り裂いた。
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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時