肆拾肆 ページ47
夜空に、光が咲いた。
「…綺麗。」
芯があって花弁の色が鮮やかな青に変化する、これは八重芯変化菊だ。遠くで自然と沸き起こった歓声が終わるのを待たずに、また花火が打ち上げられる。
今度は巨大な柳のような花火が暗闇に垂れる。冠菊だ。細かい無数の火花が捻じれながら落ちて行くと、一際大きな歓声が上がった。
彼は何を思っているのだろう。ふと彼の寂しげな横顔を見て思う。…幼い頃の母との思い出、だろうか。
火の柱が無数に空へ突き抜けた。凄まじい爆音が絶えまなく空に裂け、次々と大輪は咲き続ける。暗い夜空を彩り続ける。一瞬の光を描き続ける。
すぐに消えてしまうほどに儚くとも、確かに閃光の如く光を放つ。
…あぁ、
それから花火が終わるまで、互いに言葉を交わすことはなかった。
「いやぁ、素晴らしかったな!」
「凄く綺麗でした。最後の変芯錦先青銀乱なんて涙が出そうでした。」
「君は花火に詳しいんだな!」
「えぇ、本当に好きなので。昔ある人に教えて貰ったんです。」
また見に来たいですね、と微笑むと彼は顔を赤くしてぼそりと呟いた。
「…俺も、また君と来たい。」
微かな、でも確かに聞こえた声に、思わず目を見開く。だがその表情は何処か寂しげに見えた。
彼は分かっているのだ。鬼殺隊である以上、柱であっても彼が、私が来年も生きているとは限らない。それでも、
「来年も来ましょう。」
「え?」
「此処じゃなくても良い、また二人で花火を見に行きましょう。」
自信満々に、それでいて無邪気に笑ってみせた。
その瞬間、
強く、抱き寄せられた。
「A、好きだ。」
彼の温かい体温が、太陽の下にいるような優しい匂いが、どうしようもなく心地好い。無意識にその胸に顔を埋めた。
「…煉獄さん。私はこれから東京を離れないといけないんです。」
「知っている。お館様から説明があった。」
「何時帰ってこれるか分かりません。でも、…それまで待っていて貰えますか?」
「勿論だ。ずっとこの地で君を待っている。」
雲間から太陽が顔を出したような 晴ればれと温かく屈託のない笑顔に、止めどなく幸福感が溢れ出す。
「私がこんなにも幸せで、良いんでしょうか。」
「君は本当に愛い奴だなぁ。」
赤面しながらも優しく微笑む彼が、どうしようもなくいとおしくて、強く、強く抱きしめた。
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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時