検索窓
今日:1 hit、昨日:5 hit、合計:456,800 hit

肆拾肆 ページ47

夜空に、光が咲いた。


「…綺麗。」


芯があって花弁の色が鮮やかな青に変化する、これは八重芯変化菊だ。遠くで自然と沸き起こった歓声が終わるのを待たずに、また花火が打ち上げられる。


今度は巨大な柳のような花火が暗闇に垂れる。冠菊だ。細かい無数の火花が捻じれながら落ちて行くと、一際大きな歓声が上がった。


彼は何を思っているのだろう。ふと彼の寂しげな横顔を見て思う。…幼い頃の母との思い出、だろうか。


火の柱が無数に空へ突き抜けた。凄まじい爆音が絶えまなく空に裂け、次々と大輪は咲き続ける。暗い夜空を彩り続ける。一瞬の光を描き続ける。


すぐに消えてしまうほどに儚くとも、確かに閃光の如く光を放つ。


…あぁ、懐かしいな(・・・・・)


それから花火が終わるまで、互いに言葉を交わすことはなかった。


「いやぁ、素晴らしかったな!」


「凄く綺麗でした。最後の変芯錦先青銀乱なんて涙が出そうでした。」


「君は花火に詳しいんだな!」


「えぇ、本当に好きなので。昔ある人に教えて貰ったんです。」


また見に来たいですね、と微笑むと彼は顔を赤くしてぼそりと呟いた。


「…俺も、また君と来たい。」


微かな、でも確かに聞こえた声に、思わず目を見開く。だがその表情は何処か寂しげに見えた。


彼は分かっているのだ。鬼殺隊である以上、柱であっても彼が、私が来年も生きているとは限らない。それでも、


「来年も来ましょう。」


「え?」


「此処じゃなくても良い、また二人で花火を見に行きましょう。」


自信満々に、それでいて無邪気に笑ってみせた。


その瞬間、


強く、抱き寄せられた。







「A、好きだ。」







彼の温かい体温が、太陽の下にいるような優しい匂いが、どうしようもなく心地好い。無意識にその胸に顔を埋めた。


「…煉獄さん。私はこれから東京を離れないといけないんです。」


「知っている。お館様から説明があった。」


「何時帰ってこれるか分かりません。でも、…それまで待っていて貰えますか?」


「勿論だ。ずっとこの地で君を待っている。」


雲間から太陽が顔を出したような 晴ればれと温かく屈託のない笑顔に、止めどなく幸福感が溢れ出す。


「私がこんなにも幸せで、良いんでしょうか。」


「君は本当に愛い奴だなぁ。」


赤面しながらも優しく微笑む彼が、どうしようもなくいとおしくて、強く、強く抱きしめた。

肆拾伍→←肆拾參



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (186 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
483人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 ,
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。