玖 ページ11
「此処だけの話だ。」
隣の部屋にいる三人はもう寝てしまっている。地鳴りのような鼾がその証拠だ。三人の内の誰かの寝相が悪いのか、偶に呻き声も聞こえてくる。
「えぇ、誰にも話したりしませんよ。」
一つのランプだけを灯した暗い部屋で、私は初対面である音柱、宇髄天元に相談を持ち掛けられていた。
「場所は言えない。だが其処に鬼が棲んでいる事は確かだ。」
「…それは十二鬼月の可能性が高いのですか?」
「あぁ、そうだ。目星を付けた後、あいつらを潜入させようと思っている。」
「まさか、吉原にある遊郭ですか?」
「いやいやいや、ちょっと待て。勘が良すぎないか?」
「やはり彼処ですか。…少し待っていて下さい。」
鴉、そう呼びかければ ちょこちょこと寄ってきてくれる。そしてその首元に括り付けられた筒からあるものを取り出す。
そして畳み込まれていたそれを、大きく広げた。
「おい、これは…」
それは、ここ百年の柱の情報。彼等が集めてきた十二鬼月の情報、そして彼等の死因が載っている。
「これによると、あの遊郭で亡くなったと思われる柱は、この百年の中で四人。そして何れも単体で潜入している。」
それが示すのは、つまり。
「十二鬼月、その中でも上弦の鬼の可能性が高い、って事か。」
彼は溜め息をついて俯いた。
「それにしても、どうしてそんな貴重なものを持っているんだ?」
広げたそれを丁寧に戻しながら、妖艶に微笑んでみせる。
「乙女の秘密、とでも思っていて下さいな。」
「あー、それは詮索出来ねぇな。」
彼は頭をがしがしと掻いて、じっと此方を見つめた。
「俺は正直恐い。」
その場が、静まり返る。
「…それは、戦う事がですか?」
「いいや、違う。…相手が上弦の鬼だった場合、先に潜入させる嫁達の命が危ない。」
「…愛しているんですね。とても良いことだと思います。」
「だからこそ、折り入ってお願いがある。」
彼は覚悟を決めた 真剣な表情で此方を見つめた。
「力を、貸して欲しい。」
そう言って頭を下げた彼に向かって、微笑む。
「それで救われる人がいるのなら、私は喜んで力を貸しましょう。」
勿論今日の事は内密にしておくのでご安心下さい、そう言って悪戯っぽく笑ってみせる。
何処と無く安心した様子の彼を見て、改めて愛する者を危険に晒す覚悟の重さを知った。
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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時