Ep.18 私自身の言葉で ページ18
そう考えたとき、思わず安堵した。
ここに来て始めて、私は私自身の言葉で、真実を語ることができる。無意識に硬く引き締めていた口元が弛んだ。不謹慎だな。
「……そう、ですね。状況の矛盾が解消され、謎は解明された。残された語るべき真実はひとつだけです。それは────」
言葉が出てくる。自然に、流暢に。慣れだろうか。たぶん違う。私は調子に乗って、生意気な名探偵ごっこに興じている。
「あなたがこの事件の犯人だということ。そうだよね、越智さん」
────世の探偵の様式美に従い、Aと名乗る少女は人差し指を犯人の顔に突きつけた。
推理を披露し始めた頃、少女には一切と言っていいほど風格のようなものがなかった。
おどおどしていたかと言えばそうではないのだが、まず前置きに「探偵ごっこをしたいわけではない」と語り、「気楽に聞いて」ほしいとも言った。
見知らぬ高校の制服を着たその姿も相まって、関係者一同には一抹の不安が立ちこめた。
だがそれは、彼女が話を始めた瞬間から徐々に払拭されていった。
こともなげに語られる事件の真相は、それらひとつひとつが驚くほど的を射たものだったのだ。時折、目暮や一部刑事とは顔見知りのコナンが横から口を挟み、少女の話に補足を加える。
そうして少女の口から語られたのは、紛れもなく真実。
「証拠があるのかって言い逃れはナシだよ。あの万年筆、あなたのだよね」
その指に貫かれた越智という男は、目に見えて動揺し、視線をさ迷わせ、逃げ場がないことを悟ると、自嘲っぽく笑って暗く俯いた。
越智は、被害者の経営する会社に務める若手社員だった。殺人に至った動機は、被害者からの脅迫。弱みを握られ会社を辞められもせず、金銭的にも相当の搾取があった。
そんなことを肩の荷が降りたように滔々と語った後、「もう、こうするしかないと思ったんです。こうするしか……」と項垂れる。何も言わずに手錠がかけられ、そのまま警察官に誘導された。
コナンは黙して犯人の背中を見送った。
その姿がパトカーに消えてから、両手を上着に隠して佇むAを見上げた。「無事に解決したね」と声をかけるつもりで。
だが、なぜだか何も言えなかった。
憂いを帯びた瞳が見詰めていたのは、犯人の背ではなかった。
彼女は何か、見えないものを見ていた。
初夏の雲とビルに切り取られた空に何かを見出そうと、懸命に目を凝らしていた。パトカーが道の先に消えるまで、ずっと。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - カミレさん» 以前から!ありがとうございます🙏😊✨自分が好きなものをずっと書いてますが、喜んでくれる方がいると思うととっても嬉しいです…!✨ またよろしくお願いします! (2021年11月2日 15時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 以前からほろにがクラゲさんの作品が大好きです。久しぶりに占ツクに来てみたら、新しい作品があってとっても嬉しいです。お話の構成とスピード感、尊敬してます。今回も面白いお話をありがとうございます! 応援してます! (2021年10月29日 14時) (レス) @page14 id: 6ee71cea05 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ふれあさん» コメントありがとうございます!ホントですか…嬉しいです…🥺更新頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 鈴凛さん» コメントありがとうございます!お好きと言っていただけると自信になります…✨✨ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - snowcatさん» コメントありがとうございます❗あっという間…好み…とっても嬉しいです…😊✨これからも頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2021年9月7日 21時