陸 ページ21
妻のことを話す。
そう言って狐は、家に招いていた男たちをいつもより早めに帰した。
ギャンブラーは何だか納得していない様子だったが、海坊主は察したのか駄々をこねるギャンブラーを引きずって、まだ明るいその道を進んで行った。
「お鈴、太次郎、わしと幻太郎は少し家を出る。帰りは朝じゃ。それまで、家を守れるか?」
座敷童子たちはそれぞれ頷き、了承の意を示した。
「家を出るって、何処に…?」
「……それは、着いてからのお楽しみじゃ。
出るのは戌の刻、それまではゆっくりしていろ」
そう言って狐は、与えた部屋へと向かった。
ゆっくりしていろと言われても、何をしようか。今は締切まじかでもないし、俺には趣味らしいことがあんまり無い。
悩んでいると、袖を引っ張られる感覚がした。
「おや、太次郎。どうしたんですか?」
少年は何か言っている。
必死に伝えようとしているが、あいにく口の動きだけでは全てを理解するのは難しい。
それを見かねてなのか、少女が横から簡単な仕草を加えて少年を助ける。
「あ、もしかして…かくれんぼがしたいんですか?」
少年、少女は揃って頷いた。
俺は分かったと了承し、そして2人が隠れることになった。
声は聞こえないので、数える時間は二十秒。
これは、以前決めたことだ。
「19……20!
よし、探しますよー!」
静まりかえる家の中。
俺はまず、自分がいる茶の間付近を調べる。
けれど座敷童子は見つからない。
どんどん探す範囲を広くし、今は俺の寝室だ。
クローゼットの中、押入れ、隠れそうなところを見るが居ない。
手強い相手だ。
「…あとは、隣?」
隣は狐に与えた部屋だ。
そこに、座敷童子はいるだろうか。
「し、失礼しまーす」
そっと戸襖を開き、中を除く。
後ろ向きでいる狐は俺の声が聞こえていなかったのか、反応がない。
「……」
もう一度声をかけるべきか、それとも別の部屋を探しに行くか。
けれど、何だか狐の背が寂しそうに見えて、離れがたかった。
「……お前さんの探しものなら、ここにおるぞ」
「っ……き、気付いていたんですか?」
「愛しい者の気配ほど、分かりやすいものはなかろう」
そう言って狐は俺を見たあと、己の膝に目線をやった。
そこには少女がいて、眠っている。
「鈴が眠ってる……久しぶりに見た」
「座敷童子は基本、眠らんからのぉ。
太次郎は風呂場におるぞ。さっきからずっと歌が聞こえてくる」
「う、歌…」
なんて自由な妖怪だろう。
俺はそう思った。
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ふぃっく - 一番気になるところで終わるのがウズウズします!!!!!!ぜひ続きを書いてください! (2023年4月16日 14時) (レス) @page38 id: 634615dde5 (このIDを非表示/違反報告)
心春(プロフ) - ロールロールさん» コメントありがとうございます。最近更新出来ずに申し訳ありません…。近々更新致します。あたたかいお言葉ありがとうございます。 (2020年4月5日 12時) (レス) id: 3f9e794f84 (このIDを非表示/違反報告)
ロールロール - はじめまして!とても楽しみに更新待ってます!体調管理に気をつけてください!応援してます。頑張ってください。 (2020年4月5日 0時) (レス) id: d8adda4a88 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2020年1月12日 9時