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「何だか、懐かしいな」

不意に海坊主が言った。
それに真っ先に反応をしたのは狐で、何処か遠くを見ているかのような…そんな目をしていた。

「確かにのぉ…」

何が懐かしいのか…。
俺には分からないことだ。

けれど、きっとまた‘妻’の事なんだろう。

胸が締め付けられるような、そんな苦しさが俺を襲う。
この苦しさは……これは、嫉妬だ。

「いつまでも玄関に居ないで、早く上がりませんか」

苦しさを紛らわすために、口調が強くなってしまった。馬鹿だ。
こんな風に言えば、狐は直ぐに気がつく。

「む、済まなかったな。
では、お邪魔しよう」

「はい、どうぞ」

俺は少女を下ろし、お茶を入れる為に台所へと向かった。
下ろした瞬間、少女がどんな顔をしていたか…俺には分からなかった。

「くそっ……自分がこんなに、心の狭い人間だったなんて…」

台所に着いて、一人自己嫌悪に陥る。

海坊主も狐も、懐かしいと言っただけなのに俺は……それが……。

「幻太郎」

「っ……A、さん」

気が付かなった。気配を感じなかった。
この狐は、こういうことをよくする。

「……美人は泣いても美人じゃが、お前さんには笑顔が似合う」

そう言って狐は、己の袖で目元を拭ってくれた。しかし狐が着ているものは、誰が見ても上質なもの。
それで俺の涙を拭うなんて、何を考えているのか…。

「き、着物……汚れる」

「着物なんかよりも、お前さんじゃ。……どうした?」

「………別に」

嫉妬しただなんて、格好悪くて、恥ずかしくて、狐には言えない。

「何故隠す」

「別に、隠してなんか……本当に何も無いだけだから…!」

「お前さんは、阿呆じゃのぉ」

そう言って俺は、冷たい温もりに包まれた。
狐が、その手で俺の頭を撫でる。

「A……」

「今は嘘吐きなのに、嘘が下手じゃのぉ。
でも、変わらないそんな所が……堪らなく愛しい」

また、誰かと俺を重ねている。
俺は、その‘誰か’じゃない。

そう言って、突き飛ばしたかった。
けれどその手が、温もりが……幸せで、愛しくて、出来なかった。

「うっ……ふぅ、うぅ…」

「涙を止める為に来たが、逆効果じゃっかのぉ…」

「ほんと、ですよ……馬鹿狐」

「馬鹿狐……それは、初めて言われた」

ざまぁみろ。
涙を流しながら、そんな事を思った。

「……幻太郎、お前さんがそんなになるなら、今夜話そう。わしの‘妻’のことを」

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ふぃっく - 一番気になるところで終わるのがウズウズします!!!!!!ぜひ続きを書いてください! (2023年4月16日 14時) (レス) @page38 id: 634615dde5 (このIDを非表示/違反報告)
心春(プロフ) - ロールロールさん» コメントありがとうございます。最近更新出来ずに申し訳ありません…。近々更新致します。あたたかいお言葉ありがとうございます。 (2020年4月5日 12時) (レス) id: 3f9e794f84 (このIDを非表示/違反報告)
ロールロール - はじめまして!とても楽しみに更新待ってます!体調管理に気をつけてください!応援してます。頑張ってください。 (2020年4月5日 0時) (レス) id: d8adda4a88 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:心春 | 作成日時:2020年1月12日 9時

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