◇陸 ページ32
鳥居の上で月を見上げている狐。
その表情は固い。
｢今夜は、恐ろしいぐらいに月が輝いてんな｣
立ち上がろうとしたその時、ブチッと足元から何かが切れる音がした。
｢ﾁｯ……鼻緒が切れやがった…｣
それは、不吉なことの前触れ。
そんなものを信じるような狐ではないが、月を見上げるその瞳には不安の色が見えた。
一方で東の山。
そこでは雪女と女郎蜘蛛が不審な男と対峙している。
｢あの野郎、どうやって骨女を!｣
｢分からない。けれど、無闇に近寄っては駄目よ。……いや、近寄らなくても…あの男は私たちを殺せる手段を持ってる……｣
｢せいか〜い!
僕にはコレがあるからね!負けないぞぉ!｣
｢あれは、札?｣
｢まさか、陰陽師?｣
男が見せてきた紙切れは、妖にとっては関わりたくのない物だった。
｢陰陽師ではないよ!僕のこれは独学だからね!｣
｢……っ…とことんふざけた野郎だね｣
｢刹那、覚悟して掛かるわよ。
陰陽師とは違うってことは、私たちの知り得ない陽術を使うかもしれない｣
｢あ〜……最期にもう一度、あの御方の声が聴きたいなぁ｣
｢……そうね｣
その会話を最後に、雪女と女郎蜘蛛は男に向かって走り出した。
しかし男の力は圧倒的で、骨女同様、二人は敗れた。
その残骸は道を開けるために山道に捨てられ、目も当てられないものとなった。
鳥居の上にいる狐は、その事をまだ知らない。
｢大将は何処にいるのかな〜?｣
そして行列を作って進む男を、止められる妖はいなかった。
男はどんどん進み、そして。
｢おっ、村はっけーん!｣
山に囲まれた小さくか弱い村を見つけ、満面の笑みを見せたのだ。
｢そんじゃ!この村は要らないので、足軽さんたちっお願いね♪｣
男がそう言うと、足軽たちは松明をこれでもかと作り火を灯していく。
そして今度は横一列になり、松明を掲げた。
｢そんじゃ〜……はっしゃぁ〜!!｣
男の合図とともに、大量の松明が村に投げ入れられる。
それは家に、畑にとどんどん火が燃え移り、異変に気が付いた村民達が燃えている家から出てくる。
狐も松明が投げ入れられるその瞬間を目撃し、そこでやっと異変に気が付いた。
｢何だ、何が起こっている!!!｣
鳥居から飛び降り、村へ向かおうとするが、それはとある気配によって止められた。
｢幻太郎……｣
｢なんで、村が……燃えているんですか?｣
｢…分からん。今からその原因を確かめに行く｣
｢なら、俺も!｣
｢駄目だ!!｣
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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。｢真逆｣も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (
レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです！大好きです！ (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：心春 | 作成日時：2019年11月4日 19時
