卅参の巻 ページ44
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「若君様、若君様!!」
「どうした、騒々しい。出陣か?故郷が隣国との戦が始まったのか?」
和歌ちゃんの歓迎会という名の酒宴もひと段落し、大広間を出たところで唯一月崎からついてきてくれた家臣につかまった。
正直少し酒が回っていた俺は彼の目を読み取ることは出来なかった。今覚えば、「何かが動く合図」であったのだろうか。
「新しく来た女子、津々楽様と申しましたよね?」
「あぁ、そうやで。津々楽和歌ちゃん。漆黒の瞳が特徴・・・なん、やけ、どっ・・・・あっ」
何かに気づいたように俺が声をあげると、彼は一呼吸置き、辺りに聞こえないであろうヒソヒソ声で話し始めた。
「そう、その漆黒の瞳。若君様も覚えていらっしゃいましたか。あの月崎にとっては考えたくもない・・・忌々しい・・・あの戦。」
「伊万里か。」
伊万里家。月崎にとっては、いや、俺にとっては伊万里によって全てを壊されたも同然だ。薄々そうではないかと思っていたが、まさか______
「若君様の仰る通りでございます。津々楽和歌、というのはおそらく遊女名。吉原に来られた女子には遊女名を付けるというきまりがあるそうでございます。恐らくそれかと。あの漆黒の目は間違いございません。」
「いや、しかし・・・それだけやと物的証拠がないし・・・。」
「証拠ならございます。月崎より持って参りました、この書物によりますと・・・。」
家臣が持ってきてくれた書物に目を通す。幼き頃から手に取って読んできた、月崎家に伝わる月崎のことを記した「月崎家伝」である。
しばらく見ていなかったが、最近新しく伊万里のことが追加されたという。恐らく父が書いたのだろう。
「ここでございます。」
そこには、こう記されていた。
《 伊万里家には二人の女子がいる。一人は短髪で、もう一人は美しい黒髪の長髪である。姉君の方はどこかに嫁いだらしいが、妹君の消息は分かっていない。二人とも、漆黒の目が特徴である。 》
「あ、」
「若君様。先日津々楽様から「姉が一人いて、嫁いだ。」と・・・・。」
ここから先の言葉は要らなかった。不思議と怒りは湧いてこず、やっぱりかという落胆の波が心の中に広がった。
「これからどうするべきなんか?」
「今はまだ・・・・。いずれ、出た方が良いかとは思いますけど。」
やんなぁ、やっぱ、そうやよな。和歌ちゃんを攻めたくはないけど、月崎には因縁があるんや。
これから先、どうすればええんやろうか・・・。
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イチゴミルクキャンディ@サブ垢(プロフ) - PE@みたらし団子バカさん» わー!ありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月18日 19時) (レス) id: e98fc17c66 (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - 更新頑張ってください! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - これは私の好きな種類の話だ! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
いまりちゃん - もでらーと。さん» ありがとうございます!!(パソコンから返信しています。)そしてそしてもでらーと。様は様々な小説を書いていらっしゃるのですね!お星さまが坂田さん色で憧れます(笑)更新頑張ります! (2019年8月3日 22時) (レス) id: 42f8b00619 (このIDを非表示/違反報告)
もでらーと。(プロフ) - おもしろいです…!私、歴女&crewなので超嬉しい組み合わせです!更新楽しみに待ってます! (2019年8月3日 18時) (レス) id: 5d5b1bd419 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イチゴミルクキャンディ | 作者ホームページ:プロ野球
作成日時:2019年7月20日 20時