【金カム】愛で満たして【短編集】 (ページ6)

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ストックホルム症候群【菊田杢太郎】ページ6

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誘拐犯×菊田

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ストックホルム症候群とは、誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象。

「嬢ちゃん、おはよう。気分はどうだ？」

「 …別に。」

私はこの男に監禁されている。
この場所に連れてこられて早1ヶ月が経とうとしている。

でも元々家出をしている身だからきっと誰も心配なんかしていない。私は悲観しながらも、この状況になにも焦っていない。

「ねえ、おじさん。なんで私のこと監禁してるの。」

「あー…、それを知って何になる？」

「 …別に。」

「なんだよ、聞いてきた割に質問返しされるといつもの通りかよ。」

おじさんは、煙草に火をつけて窓から顔を出して煙を吐いた。この人、こういうところは配慮がある。
料理もできて、ご飯も振舞ってくれる。私がほしいものは、見返りを求めることなく叶えてくれる。

だからこそ、目的なしに監禁してるのが私には理解できなかった。
親に身代金でも要求したり、この男の都合の良いように私を使うなら、この人のことをもっと知りたいだなんて思わなかったのに。

「 …おじさん、名前なんていうの。」

「あ？あー、俺ァ菊田ってんだ。」

「ふーん。」

「なんだ、急に名前なんか聞いて。」

振り返って私を優しい瞳で見てくる。
私は、何でもされる覚悟で菊田さんの背中に抱きついた。

「 …ねえ菊田さん。本当はここ、自分の家じゃないんでしょ？私を菊田さんの家に連れてってよ。」

「！…はは、本当に誘拐されたくなったか？」

「 …うん。なんでだろうね、最初は嫌いだったけど、菊田さんが私に優しくするから勘違いしちゃったじゃん。」

彼は、煙草の灰を落として口に咥える。
空いた手で私の背中に手を回して、とんとんと優しく撫でる。

「じゃあ、もう俺に何されても文句言わないわけだ。」

「 …好きにすれば。」

煙草の匂いが染みついたコートに、近づくといつもしているコーヒーの香り。
私は、与えられてこなかった父性か何かを彼に求めているんだろう。

彼の車に乗せられて、待っていれば彼はどこかに電話していた。会話は聞こえてこなかったけど、笑っている。

車に乗り込んできたと思えば、優しく手を握られる。

「時間をかけた甲斐があった。計画通りだな。」

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