“プライド”より大切なものは決意446 ページ46
「……言い辛いけど、修復は不可能だ」
鉄子の言葉に無意識に手を握りしめる。
傷もほとんど治り、ここ最近も何も騒ぎが起きることなく平和に暮らす日ばかりが続いていた。
阿伏兎との戦いによって木端微塵に砕けてしまった懐刀の刀身。
新八の言う通り、鉄子なら、と微かな希望を抱いて訪れたが、予想通りだった。
少し俯いてしまった喜杏に鉄子は言い淀んだ。
だが、嘘をつく必要などない。誤魔化せば傷つくのは喜杏である。
「私にできるのは他のを薦めるか、似せて造ることだけだ」
「……うん」
喜杏は鉄子にお礼を言い、鍛冶屋を出た。
すぐに返事をすることはできなかった。
手に馴染んだ懐刀を手放すことは正直、恐い。
柄に彫られた文字は勝手ながら自分の名前だとずっと信じていた。
銀時達と出会い、自分を象徴する名と実現した。
侍のように愛刀、というほどではないかもしれないが、自分にとって愛刀であり、お守りのようであったのは確かであった。
大事にしていた理由は他にもあった。
この懐刀は貰い物、だった気がする。
ほとんど思い出すこともできない記憶を辿った。相手の顔色も容姿も分からないが、感情を伴っていない口調だった。
あぁ、なんだっけ。
『______この先、お前を見つけたら』
その先の言葉が全く思い出せない。
鉄子の返事は分かっていた。分かっていたが、僅かに希望も持っていた。
思わず喜杏の口からため息が漏れる。
しかし、このままではいけないことも理解していた。
強くなりたい。
大切なものを護れる強さが。
神楽や新八も同じ思いを抱えている。
思い知った敵の強大さ。そして、自身の弱さ。
自分も力をつけないといけない。
懐刀の件は一旦置いておこう。
前向きに考える機会だ。
懐刀しか使えないのも問題大ありだ。
勿論、使い慣れた懐刀の技術を上げるのが一番適しているが、今は使えない。
となると、喜杏の脳裏に浮かんだのは刀である。
銀時達と行動していると、やはり刀に触れる機会は増えていた。
ただ真剣の必要はない。まずは新八のように木刀を正確に扱えるようになりたい。
銀時に修行を頼もうかと考えたが、絶対にめんどくさがるか、軽くあしらわれる未来しか考えられない。
誰か師になってくれる者はいないか。
喜杏が頭を捻って考えているとある一人の人物が思い浮かんだ。
素直に頷いてくれる可能性は無に等しいが、頼むことに罪はないはずだ。
喜杏は顔を上げ、走り出した。
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月見ソウ(プロフ) - 萩月さん» 萩月さん、コメントありがとうございます!遅れてしまってすみません。一気に読んでくださったこと、可愛いと感じてもらえてとても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。 (1月13日 6時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
萩月(プロフ) - 面白くて一気に読んじゃいました、不器用ながらも喜杏ちゃんを可愛がる銀さんや甘えたな年頃の喜杏ちゃん等、ニヤケが止まりません!続きを楽しみにしてます。年明け早々色々ありましたが作者さんも無理せず頑張ってください、これからも応援しております。 (1月3日 15時) (レス) id: 18ce4c7edf (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 蛙好きさん» 蛙好きさん、コメントありがとうございます!一気に見てくれたんですか!?嬉しいです、ありがとうございます。一月下旬当たりにここに戻りたいと思ってるので、申し訳ないですがもう少しお待ちください。これからもよろしくお願いします。 (12月26日 16時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
蛙好き(プロフ) - 夜中一気に見ちゃいました、続き楽しみにしています (12月23日 2時) (レス) @page46 id: 7bb3646af7 (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 甚嘉さん» 甚嘉さん、コメントありがとうございます!成長は特に意識して買いてるので感じてもらえて凄く嬉しいです。少し更新速度落ちてますが、頑張ります!よろしくおねがいします。 (9月25日 23時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見ソウ | 作成日時:2023年9月4日 0時