435 ページ35
同時刻。
血の匂いが漂う中、晴太は扉の前に立っていた。
扉の先に母がいる、と神威は言った。夢にまで見た母親が漸く手を伸ばせば届くところまでやってこれた。
生唾を飲み、そっと扉に触れようとすると。
「帰りな」
凛とした声が自身を否定する。
どうして。中にいるんだろ。何度母の名前を呼んでも、何度おいらの名前を叫んでも知りやしない、の一点張り。
「……私に息子はいやしないよ。あんたみたいな汚い餓鬼」
「……なんで汚い餓鬼だって知ってるんだよ」
引っかかった。
今まで日輪とは一度も目が合ったことはなかった。手を伸ばして何度も母ちゃんと店前で叫んでも反応することはなかった。
それなのにどうして知っているのか。
応えは一つ。
日輪も自分のことを見ていたのだ。
何度叫んでも晴太を巻き込まないように必死に声を我慢していたのだ。
想像もできない苦しみだろう。目の前に命からがら助けた子供が自分に手を伸ばしているに、伸ばし返すことも返事を返すこともできない。
何も知らなかった。
育ての親と生活していた時も、一人になった時も全てを母親のせいにしていた。
だが、逆だった。
「ごめん母ちゃん。おいら……何もわかっちゃいなかった。
母ちゃんがずっとおいらのことを護ってくれていたことを」
だから今度は。
今度こそは。
「おいらが母ちゃんを護る!!!」
中からも施錠されている分厚い扉に晴太は体当たりをした。
今度こそ、二人で。普通の暮らしを。
それが貧乏でも、しんどくても今度は自分が護るから。
ありふれた日常を母ちゃんと過ごしたい。
ただそれだけだから。
出てくるまでおいらは何度だった叫ぼう。何度だって名を呼ぼう。
「母ちゃんここを開けてくれ!!!」
「止めとくれっ!!!」
苦しそうな母の声に息をのみ、自然と体は止まってしまった。
「あんたの母ちゃんなんて……ここにはいない。
そう言ってるだろ」
「そんなことあるまい」
泣きそうな声でそう言う母の声に混乱していると、背後から届いた悍ましい声。
「そんなに会いたくば会わせてやろう」
「ほ、鳳仙!!!」
鳳仙は懐から何か取り出し、晴太の足元へと投げた。
それは一束の女の髪。
「童、それがお前の母親だ」
一瞬、息が出来なくなった。
「お前の母親は日輪ではない。
とうの昔に死んでこの世におらんわ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 236人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月見ソウ(プロフ) - 萩月さん» 萩月さん、コメントありがとうございます！遅れてしまってすみません。一気に読んでくださったこと、可愛いと感じてもらえてとても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。 (1月13日 6時) (
レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
萩月(プロフ) - 面白くて一気に読んじゃいました、不器用ながらも喜杏ちゃんを可愛がる銀さんや甘えたな年頃の喜杏ちゃん等、ニヤケが止まりません！続きを楽しみにしてます。年明け早々色々ありましたが作者さんも無理せず頑張ってください、これからも応援しております。 (1月3日 15時) (レス) id: 18ce4c7edf (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 蛙好きさん» 蛙好きさん、コメントありがとうございます！一気に見てくれたんですか!?嬉しいです、ありがとうございます。一月下旬当たりにここに戻りたいと思ってるので、申し訳ないですがもう少しお待ちください。これからもよろしくお願いします。 (12月26日 16時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
蛙好き(プロフ) - 夜中一気に見ちゃいました、続き楽しみにしています (12月23日 2時) (レス) @page46 id: 7bb3646af7 (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 甚嘉さん» 甚嘉さん、コメントありがとうございます！成長は特に意識して買いてるので感じてもらえて凄く嬉しいです。少し更新速度落ちてますが、頑張ります！よろしくおねがいします。 (9月25日 23時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月見ソウ | 作成日時：2023年9月4日 0時
