貴方の傍に-9-【銀魂】

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二十年前。

天人と侍の争いによって吉原も戦火に巻き込まれた。
しかし、その利に目を付けた天人達が売淫御法度の時勢に幕府に取り入り、地中深く復活させたのが地下吉原桃源郷。

中央暗部の関わりがある故、ここは幕府にも黙殺される超法規的空間である。
公に出来ない政の秘事を語る場として利用されることも多かった。

つまり悪政を育む温床となっているのだ。位の高低関係なく遊女となれば、国を左右しかねない情報の一つや二つ握っている可能性もある。

その為遊女は一度この吉原に足を踏み入れれば最後、お天道様を拝むことは二度とない。

売り飛ばされた女達は一生商品と扱われ、地下に繋がれ使い物にならなくなるまで酷使される。価値がなくなればその先は“死”だけであった。

逃げ出そうとすれば、すぐ始末される。まさに鳥籠であった。


「……この街が常夜の街と呼ばれるのは色里を指してではない」


女達は吉原に売られて初めて知るのだ。
決して希望に満ちた朝が訪れることはないと。
明けることのない絶望を、終わることのない夜を生きねばならないということを。





しかし、その絶望の最中。

たった一人だけ違う目をした女がいた。

月詠は目を疑った。
吉原に来てから、皆諦めと絶望を抱えた目をしている中、目が死んでいない女がいた。

その女は罰せられた月詠の腫れた頬を優しく拭き、綺麗に握られたおにぎりを置いていった。

月詠は吉原という牢獄から、鳥籠から逃げ出したくて堪らなかった。
女達のように生きているのに死んだように生きたくなかった。
それくらいなら死にたかった。

だから目を付けられた。強く生きなきゃ。元々目つきの悪い餓鬼がふてぶてしくいればそうなる。

そして、その女はこう言った。


「死ぬだなんだ喚いて逃げ回っている暇があるなら


檻ん中で戦いな、自分と」


その言葉は月詠の心にすとんと落ちた。
振り返った女の目はまるで太陽のようだと思ってしまった。

そして、月詠にとって本当の太陽であった。

その女の名こそ、“日輪”。

月詠だけではない。他の女達も日輪の陽気な笑顔に触れる時だけは皆自然と顔が綻んでいた。
幼い月詠はその光景が今でも目を閉じれば昨日のように思い出せる。

日輪は皆の太陽となった。この吉原を燦燦と照らす大きな光となったのだ。
月詠は自身の顔に触れた。

「わっちが己の顔を傷つけ女を捨てたのは


日輪を護るためじゃ」

その覚悟こそ、月詠の傷が示していた。

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