第禄話「炎柱と少女と」 ページ9
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『杏寿郎さーん!』
明るい声に、木刀を降ろして素振りを辞める。顔をあげれば、Aが手を振りながら門の所に立っていた。
「む!Aではないか!どうした?」
『お届け物です!』
そう言って彼女が、かがげて見せたのはここら辺では美味しいと評判の和菓子屋の紙袋。見覚えのないそれに、俺は首を傾げた。Aはそんな俺を見て笑うと、駆け寄ってくる。
『お礼だそうです!以前、杏寿郎さんに助けて貰ったとかで……街で会って、渡してくれないかと頼まれたんです!』
紙袋に入っていた手紙の名前を見て思い出した。若い青年が、鬼に襲われそうになった所を助けることが出来たのだ。
当たり前のことをしたと思っているが、お礼というのは素直に嬉しい。自分の口元が緩むのがわかる。
「そうか、ありがとう!良かったら、あがっていかないか?」
『じゃあ、少しだけお邪魔させてもらいます』
千寿郎が買い物で出掛けていた為、Aを縁側に座らせお茶を用意する。湯呑みを持っていくと、Aは青年から貰った手紙を眺めていた。
『杏寿郎さんはやっぱり凄いです。沢山の人を救っていて』
「それを言うなら、Aだって同じだろう!」
身を犠牲にし、沢山の人を救うその姿に胡蝶や甘露寺はいつも心配していた。俺だって、あまりいい顔は出来ないが、
「俺は鬼殺隊として、素晴らしいと思う!!」
強者ならば、弱者を救え。母上の言葉が過ぎる。俺達、鬼殺隊が人々を救わなければ誰も救えないのだから。
『私の"これ"は償いです。人を救うことで許されようとしている……ずるい人間ですよね』
彼女は俺を眩しそうに見た後、首を横に振る。まるで、貴方とは違うと言われているようだ。
「例え、償いだとしても人を救うというのは素晴らしいことだろう!何も恥じることはない!」
俺の言葉に、今度は彼女が驚いた。彼女の瞳が大きく見開いたかと思うと、俺から逃げるように伏せてしまう。
『ありがとう、ございます』
しかし、弱々しい声と共にゆっくりと上がった顔には笑顔が浮かべられている。
『優しい人、になりたいです。貴方達のように』
「俺よりも君の方が優しいだろう!!」
俺の言葉に、君はまた首を横に振る。それに不満を覚えて、その小さな体を自分の腕で包み込んだ。最初は驚いていたが、やがて白く細い手が俺の背にまわされ、愛しさが溢れる。
彼女の手が、震えていたことには知らないふりをした。
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新頑張ってください! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです!夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ!完結おめでとうございます!!とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました(笑)今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年3月18日 17時