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がらりと変わった雰囲気にピクリと体がとまる。振り向けば、女はとても怒った顔をしていた。
『そんな血だらけのまま帰らせることなんて、出来るわけないでしょ』
いつもの平和ボケした雰囲気はどこにいったのか。反論しようとしたが、その圧倒的な雰囲気に呑まれたのだ。
暫く、俺と女の間に沈黙が流れた。けれど、それを破ったのは女の方。
『私のこと嫌いでもいいから、手当だけはさせて。……お願いだから』
張り詰めていた雰囲気が不意に緩む。けれど、触れた女の手は震えていて、俺は拒否できずそのまま藤の家に着いて行った。
『よし、これでいいかな』
藤の家に着くと、女はババアから包帯と薬を貰い俺の手当をした。情けねェ。自分より弱そうな女に助けられ、手当されたのだ。
『伊之助は強いよ。きっと、もっと強くなる。私なんて敵わないくらいにね』
突然、頭を撫でられた。その言葉を無視するが、そもそも俺の返答なんて求めていないのだろう。女はずっと、俺の頭を撫で続けている。
ゆっくりと喋る声が、また俺をフワフワさせやがる。でも、前よりも嫌だと思えない。それに身を任せれば、心地いいと知ったからか。
「当たり前だ!直ぐに、お前なんかぶっ倒してやる!!」
『そうでなくっちゃ!さすが、伊之助』
ニコニコ笑う今の姿と、俺の怪我に必死になっていたさっきの姿が重なる。途端に、フワフワとは別の嫌なモヤモヤしたものが渦巻いた。
「……オマエのこと、別に嫌いじゃねぇから」
女の方からクスッと笑い声が聞こえてきてムカついて、そっちを見た。
『嬉しい、ずっと嫌われてるって思ってたから』
女はとても優しく笑っている。俺の言葉で、必死になったり笑ったり変な奴だと思う。でも、それが不思議と嫌ではなくて、
「なぁ、オマエの名前なんだよ」
『四橙A。ちゃんと覚えてよね?』
俺が名前を聞けば、また嬉しそうな顔をした。今なら、俺の子分にしてもいいかとも思う。
「決めた!!テメェは、今日から俺の子分だ!いいな?!」
俺の言葉に、Aは少し驚いてからうなづく。俺よりも細い腕や足。改めて見れば、やっぱり俺よりも弱そうだ。
「子分を守るのが、親分の役目だからな!!困ったことあったら、俺に任せろ!」
俺が守らないといけない。俺の言葉に、Aは少し複雑そうな顔をしただけでうなづかなかった。
(やっぱり、コイツは変な奴だ)
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新頑張ってください! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです!夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ!完結おめでとうございます!!とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました(笑)今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年3月18日 17時