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私を掴みあげる鬼の姿も、空に浮かぶ月も、全部白黒に見える。この感覚には覚えがあった。
私の太陽を失った日に味わった感覚。何を見ても、何を聞いても、何も感じない。お館様に鬼殺隊になれと言われ任務をこなす日々。
そんな日々を変えてくれた人達がいた。色の無い世界に色を、生きてはいけない私に生きる意味を与えくれた大好きな人達。
「可哀想になァ……だーれも、オマエのこと助けにこないぜ?」
『……あんたなん、か私だけで、充分なんだよ』
私の言葉に鬼は苛ついた様に、手に力を込めた。息が吸えなくなり、ヒュッと喉が鳴る。
彼等は優しいから、私が助けを求めれば来てくれただろう。でも、巻き込みたくなかった。これは任務じゃない。復讐だ。憎しみに塗れた殺しだ。そんなこと、彼らにさせてたまるものか。
幻聴か、遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえる。幻でもいい。飛ばしそうになった意識を舌を噛んで、戻す。幸いにも、まだ刀は振れる。
『ねぇ』
「なんだァ?ここにきて、命乞いかァ?」
『地獄まで、付き合ってよ』
__罪の呼吸 弐ノ型 餓鬼
雷鳴の様な音が夜闇に轟いた。私を掴みあげた手も、憎たらしい顔も、全てが炎に包まれた。
やがて、煙が薄くなり鬼がいた場所には灰だけが積もっていた。その光景に何かが込み上げる。
『師匠……私、』
言葉を発しようとした瞬間、口からゴボッと嫌な音を立てて血が吐き出された。身体中に激痛がはしる。立っていられなくなり、私の身体は地面に倒れた。
それもそうだ。弐ノ型は攻撃力が高いかわりに、代償がある。身体に、尋常じゃない負荷がかかるのだ。普通なら一日に一回が限界。
それを二回も使用し、おまけに腹には大きな穴が空いている。息が詰まる感覚にこれは、肺がイカれたかなと思った。
目を閉じれば、師匠の笑顔が浮かぶ。泣きたくなるから、苦しくなるから、ずっと思い出さないようにしていた。
ありがとう。その一言さえ言わなかった自分が許せなかった。どれだけ声に出したって、もう届かない。あの人が死んだ後に、気づくなんて遅いにも程がある。
(でも、そっち行ったら……嫌ってほど、言ってやるから待っててよ)
心残りがあるとすれば、彼らに会えないことだけ。保険として、文を用意して良かったと心の中で安堵する。なのに。
(あぁ、なんで)
「A!!」
「Aちゃんっ!!」
(なんで、こんなところにいるの)
薄く開いた視界から見えたのは、大好きな彼らの姿。
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新頑張ってください! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです!夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ!完結おめでとうございます!!とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました(笑)今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年3月18日 17時