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「A、逃げろッ!!」

(あれ?どうして、こうなったんだっけ?なんで、)

目の前で息を乱して、私に向かって叫ぶ師匠に思考が追いつかない。今日は、5回目の私の誕生日だった。でも、師匠がいつまで経っても帰ってこないから心配して探しに来たのだ。

家から少し離れた場所に師匠はいた。けれど、師匠の他にもナニカがいた。


「イイねぇ、餌が二匹に増えた……!!」


紅い瞳を爛々とさせ、私を見つめるその顔は歓喜に満ち溢れていた。頭から伸びた角と、赤い口から僅かに見えた鋭い牙に師匠から聞かされていた鬼だとわかる。

全身が震えた。恐怖に支配された私は、鬼にとって滑降の餌だったのだろう。師匠に名前を呼ばれた時には、目の前に鬼の腕がのびていた。

死を覚悟した時、目の前が真っ赤に染った。頬に勢いよく液体がかかる。生臭い匂いとその色に、血だとわかった。けれどそれは、


「バ、カが!!A……!!」

『し、しょう?』


私のものじゃない。私の目の前に立った、師匠のお腹から鬼の手が生えている。息が詰まる感覚がした。

鬼はそのまま、勢いよく腕を引き抜くと師匠の体を掴んだ。力の抜けた師匠の手から、刀が落ちた。鬼の口が大きく開く。

(待って、なに、するの?師匠をどうするの?)

混乱する私を他所に、鬼は勢いよく師匠の左腕に噛み付いた。


「"アァッ!!」

「うめぇなァ!!お前、最っ高だよ!」


師匠の絶叫する声と、骨を噛み砕く音と、鬼の興奮した声が私の鼓膜を揺らした。不快なその音たちが脳内でぐちゃぐちゃに混ざり合う。

(たすけなきゃ、師匠を)

直ぐ傍にある、刀を手に取る。震えた手では、それは上手く掴めず何度も零れ落ちた。早く早く、頭の中はそう急かしているのに体が思うように動かない。

不快な音に混じって、名前を呼ばれた。大切なあの人の声で、大切なあの人が付けてくれた名前を。


「ご、めんなぁ……たん、じょうび……いわえなくて」

『いい、っ……そんなの、ゆるすから!!だから、』

「なぁ、A」


また、呼ばれた。その声は愛情を含んでいて、いつもなら嬉しいのに今は嫌だ。ーーやめてよ、そんな声で。最後みたいじゃん。

黄色の瞳が柔らかく細められる。月に照らされた、師匠は私の大好きな笑顔を浮かべていた。


「あい、してる……しあわせ、に」


師匠の声は最後まで聞けなかった。鬼が師匠の右半分の顔を喰らったから。

その瞬間、悟ってしまった。私の太陽は沈んだのだと。

第拾捌話『未来の話をしよう、貴方達の』→←◇



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設定タグ:鬼滅の刃 , 愛され   
作品ジャンル:アニメ
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新頑張ってください! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです!夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ!完結おめでとうございます!!とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました(笑)今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年3月18日 17時

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