暗闇,035 ページ36
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涙は流していないけれど、ほろりと何かが舞い落ちる。本当だ。先程のいい加減な輩も、腐っても人間だ。それだけで侮蔑していい理由にはならないはず。
そう主張する彼女の気持ちも分かるが、今はそうじゃない。月王Aがいつまでも月王Aでいられるように。必要な過程なのだ。決して相手を詰(なじ)るわけでも、握り潰すわけでもない。
ーーーただ、必要最低限の防御をするだけ。
「いいや、Aさん。これは君自身の尊厳に関わる問題だぞ。君が君で在るために大切なことだ、なにも……さっきの輩を否定するわけじゃない」
「わたしじしんの……そんげん、なんて」
「あるぞお。絶対に、ある。Aさんも人間なんだからなあ。」と間髪入れずに、しっかり彼女の目を見てそう告げてくれる。驚いているのか、瞳孔が大きく開かれている。
「ひさしぶりに言われました……まま。にんげんとか、わたしは『そうじゃない』と家の者にもいわれて、そだってきましたから……」
「『久しぶり』……。うんうん!そう言ってくれる人がちゃんと周りにいるんだなあ、ママはそれを聞いてひと安心です‼それじゃあそろそろ俺は、さっきの輩を追いかけてもいいかあ?」
「えっ……あの、追いかけるんですか?」
斑に聞き返すが、返ってきたのは「そうだが?」という当然といった、無謀な返事。こういうところは戦隊ヒーローだ。まだまだ抜け切らない戦隊ヒーローに、彼女は苦笑いを零す。
「でも、会長さまから話はきいていますよ……?奏汰くんのけんで、えらく『でしゃばり』をしてしまったと。」
「信用なりませんね〜?あなたは昔から加減をしらなさすぎることが多いのです。わたしと『やくそく』してください、ぜったいに痛いことはしないと……誓いなさい」
「あっはっは☆言われたことは守るぞお、これでも『正義の味方』だからなあ!……Aさんは古いと思うか?」
ーーー古い。正義の味方という言い回しが古いかどうかではなく、もっと深いところを突いて。自分には『古い』言葉だろうか。一度仲間を振り切った俺には、烏滸(おこが)がましいだろうか。そういう意味だろう。彼女は真意をしっかりと捉えて微笑む。
「いいえ〜?わたしはそう思いません。」
「では。もし彼が『あく』ならば、しっかりその部分だけを潰してあげてくださいね……♪」
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日向サク(プロフ) - ありがとう〜 (2017年12月14日 18時) (レス) id: 7c85688fc0 (このIDを非表示/違反報告)
しょーり - サイコー!! 大好き!! キュンキュン!! (2017年12月14日 18時) (レス) id: d8a6f4a6f4 (このIDを非表示/違反報告)
亜純(プロフ) - とってもいいです!!最高です!!応援しています!更新頑張って下さい! (2017年10月17日 1時) (レス) id: f65f9d6e58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:日向サク | 作成日時:2017年9月16日 10時