１３０話 ページ34
貴方視点
…ふーん…？
なるほどね。
甘酸っぱい二人を盗み見しながら私は物思いに耽った。
ずっと昔からぼんやりとあった記憶。
『…ふぅ。』
きっついなぁ。
アキが異様な空気を感じた場所。
私もさっきそこに行った。
そこで感じたのは、狂ったような虚無感。
気持ち悪くて、本当に狂ってしまいそうで。
アキと同じく、私も即座にその場をあとにした。
きっとその時だ、記憶の靄が晴れたのは。
導かれるように空を見上げた。
そこには金色に輝く月。
私はそれに手を伸ばし…呟いた。
『決着をつけようか。…死季。』
ふわりと、花びらが舞った。
「ふわ…おはよう、A」
あれから数日後、いつもに増して眠そうな彼方の声が聞こえた。
『おはよう彼方！ちょっとついてきて欲しい場所があるんだけど、大丈夫？』
水を飲もうとしていた彼方の手が止まる。
「………………いますぐ？」
『いますぐ！』
溜めた言葉に若干の抵抗を感じるけれど、まぁそれは今はどうでもいい。
「分かった、行こうか。」
薄めを上着を羽織って、彼方は微笑を浮かべた。
「ここって…あの空き地？」
『うん、そうだよ。』
そう、私にとっても彼方にとっても慣れ親しんだ地。
それでも彼方が驚いている理由それは。
桜の大木。それに花が咲き始めているから。
「いや、…いやいや…。もう夏本番だよ…？なんで桜の花が…」
混乱、困惑。それらが全面に押し出されているようだった。
『…全部、解決したら話すよ。だから、彼方には信じてほしくてここに呼んだ。』
そう、信じてほしくて。
彼方は、連れていけないから。
「…また、危ないことすんの？」
彼方が悲しそうな顔をする。
…わかってる。
私を危険から切り離すために早めに結婚したこと。
私を自由にするために、頑張ってくれたこと。
それでも、だめなんだ。
『…うん、ずーっと昔の契約だから。』
契約は、破棄されていない。
幾千年も前から、ずっと。
「…ふっ…わかった、信じるよ。」
『…いいの？』
もっと渋るかと思った。
「で・も！俺の心の平穏を保つために、早めに帰ってきて欲しいね。」
彼方の温かい手が頬に触れる。
私は、困ったように笑って。
彼方の唇を受け入れた。
触れるだけの、かわいらしい口づけ。
「いってらっしゃい。」
『…いってきます…！』
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作者名：まき | 作成日時：2022年9月22日 22時
