第九十六話 最期 ページ9
崩れた。
そのまま重力に歯向かう事とも無く、ただ下に落ちた。
私は動けなかった。
Aさんは遥か遠い所に帰った。
そんな気さえした。
「…遺体を回収します。担当は下へ。」
坂口先輩は部下に事務連絡をする。
淡々と述べるそれは珍しく、どこか悲しい声。
「……帰るぞ。辻村君。」
「……はい。」
私たちにはどうする事も出来なかった。
勝てなかったのだ。
Aさんの最期を変える事など、初めから出来はしなかった。
私達は歩き出した。
これは私達が出会ってから、既に決められていた運命だったから。
でも、もしかしたら。
あの日、室内で焚き火していたAさんに、生きる意味を教える事が出来たなら。
もしかしたら、何か変わっていたのかもしれない。
あの日、あの時。
再び、あの瞬間に戻れたなら。
─────そんなものは、夢物語でしか無い。
これで良かった。
そう思うしか、選択は残されていなかった。
Aさん。
貴方らしい、綺麗なバッドエンドでした。
おやすみなさい。
Aさん。
─────願わくは最期は、安らかにお眠り下さい。
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