第九十四話 自称 ページ7
「……A君のシャツは常に釦が逆。つまり男物を愛用していることは知っていた。」
『逆だと慣れなくてね。』
「其れにA君には癖がある。」
「動揺する際には頻繁に天才と自称している。」
「自己紹介では昔は凡ミスが多かったとも云っていたな。其れがあの日記に繋がっているのだろう。」
「云い聞かせてるんだろう。今は凡人ではなく天才だとな。」
次々と証拠を告げていく。
───犯行は、Aさんにしか出来ないと証明されてしまう。
「其れに、A君の異能は人を操ることが出来ると云うのは知っていた。」
Aさんは僅かに目を開いた。
「残念ながら、確信は持てなかったがな。」
『……そうか。』
Aさんは微笑む。笑顔を貼り付けているみたいに、その表情は崩れない。
「────犯人は君だ。A君。」
『……流石、綾辻先生だ。』
『そうだね。私は母親を殺した。』
『異能を使ったんだ。あの日。1度でいいからお母さんに愛されたくて。』
『……母親からの愛は、暴力だったよ。』
『異能の操作に慣れていなかった私は必死に止まって、厭だ。と抵抗するが異能は使えなかった。』
『何故だと思う?』
『───私の異能は、人を飼い慣らすことが出来る。』
飼い慣らす異能。
其れが、Aさんの異能力……。
『いくら飼い慣らして居ても、吠える犬に恐怖心を覚えながら命令したって、聞くはずがないんだから。』
『でもね。この飼い慣らす異能は私が上の存在だと、敵わないと相手が思っていないと発動することが出来ない。』
『……母親は認めてくれていたことが、死んでから初めて判ったよ。』
『未来を予測することが可能だったのも私の頭脳のおかげだ。其れを神のように扱い、予言者と呼ばれるのは酷く嫌いだったがな。』
『……異能の条件は満たしただろう…残り数十秒だろうか。』
Aさんは歩き出した。
あの滝の方へ。
『前回は期待させられ、結局生き延びてしまったからね。これで本当に、漸く死ねる。』
Aさんはくるっとこちらを振り返る。
あと一歩下がれば、落ちてしまうだろう。
どうして、Aさんにだけこんなに不幸が訪れるのだろう。
どうして、Aさんはこんなことを仕組んだんだ。
どうして─────そんなに死にたいんですか。
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