第九十三話 無罪 ページ6
「……何を云ってるんですか、私……判らないです。」
頭を鈍器で殴られた様な感覚だった。
否定して欲しかった。
嘘でも冗談と云って欲しかった。
『辻村さん。』
名前を呼ばれてAさんの方を見る。
悲しい表情を浮かべている。
どうして。
「……犯人は、男性ですよね?だって、息子だって。」
服も男物ばかりで、到底女子の部屋とは思えなかった。
「……調べたが、あそこの家は2人兄妹だった。恐らく優秀な兄が死んで、その兄役を妹にやらせたのだろう。」
「其れだと、日記の紛い物発言も理解が出来る。」
「そ、其れがAさんだって証拠が無いでしょう?!」
「ある。」
冷徹な瞳が私を刺す。
何時だって先生は無慈悲で、何時だって正しい。
「証拠ならある。」
……ここで、証拠を述べてしまうと異能が成立し、Aさんは数刻の内に亡くなってしまう。
頭が割れる様に痛い。脳が警告を出している。
「そもそも!だって、この事件は……」
「ああ。正当防衛で無罪だ。」
「どうして……。」
『私を早く殺したい人物がいたからね。』
『うんうん。時期も計算通りで流石私の予測だ。何もズレずにここまで来られた。』
「Aさん……」
『さて、依頼として来てしまった以上其れを断る事も出来ない。これで私は絶対に死ねる環境が出来た。』
『……綾辻探偵事務所は凄く楽しかった。もっと生きていたいと思ったくらいにはな。』
其れに、とAさんは言葉を続ける。
『安吾。態々私に関する情報を消してくれてありがとう。』
「……何の事だか、さっぱりです。」
其れを見てAさんはふふ、と笑った。
「……Aさんは、厭じゃ無いんですか?」
『……何で?だって漸く死ねるんだ。この好機を逃す訳には行かない。』
そう云うAさんの目は黒く、光のひとつさえ反射していなかった。全てを飲み込む黒。そんな目をしていた。
「辻村君。」
坂口先輩が私を制止する様に呼んだ。
『さて、綾辻先生。準備は出来た。─────推理を聞こうか。』
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