第九十二話 招待状 ページ5
「事件解決……ってどう云う事です？？」
「だって、まだ名前すら何も判らないんですよ！？」
「必要無い。明日犯人から招待状が来る。特務課も呼ばれてな。」
「え？？招待状……？」
『ま、明日を気長に待とう。』
私は何時もの様に笑顔で辻村さんに話しかけた。
＊
───次の日、綾辻探偵事務所と特務課に手紙が届いた。それはあの日記の字によく似ていた。
“本日午前十時、其の滝に於いて待ち候む。
俺は彼処に現はれん。”
「……まさか本当に手紙が届くなんて思いませんでした。」
『そうだね。』
返事が無い綾辻先生は、不言のまま滝に向かって歩いていた。
何時もより固い表情を浮かべているのが、直ぐ判った。
「この崖をよく疲れずに登れますね……。」
『安吾。もう疲れたのかい？こんなのでへばってちゃ、まだまだだねぇ。』
にこにことAさんは坂口先輩の事を煽っている。
「Aさんって坂口先輩が居ると活き活きしますよね……」
そう云うと、すこし目を見開いてから、優しい表情を浮かべて目を閉じた。
『そうだね。昔からの大切な存在だからな。』
「じゃあ其の存在をもっと労わろうとは思わないんですか？？」
直ぐに反論して来た坂口先輩を見て、Aさんは笑った。やっぱり、坂口先輩がいると何時もよりも幼く見える。
「着いたぞ。」
綾辻先生がそう云うと、あの滝の開けた場所に着いた。
時計を見ると時間は10時ピッタリ。
「……誰も居ませんね。」
「……居るだろう。そこに。」
綾辻先生はこちら側を見て云う。直ぐに後ろを振り返るが、私達以外には誰も居なかった。
坂口先輩が暗い表情を浮かべている事に気がつく。
「……何だ、居ないじゃ無いですか誰も。」
私は続けて云った。
綾辻先生は人差し指を立てて人を指した。
その方向を見る。
「……Aさんしかいませんよ？」
『そうだねぇ。私しか居ない。』
「……犯人は、何処にもいませんね。」
何故か心臓がドクドクと波打っている。
違う。
違うんだ。絶対に。
綾辻先生は私の目を見て云った。
「君ももう、気付いただろう？」
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