第八話 忘却の異能 ページ32
「……《星の王子さま》其れは、人と異能を飼い慣らす事が出来ます。」
「───人と異能を飼い慣らす?」
俺と辻村君の間に、風が吹いた。
外で葉と葉が擦れる音がする。まるで何かを訴えてきているかのようだった。
「あまり詳しい事は判っていませんが、人と会話する等をする。つまり、飼い慣らすごとに人を操りやすくなります。」
「異能も使いたい異能の名前と異能の詳細が判れば使えます。最初は上手く操れないらしいですが、その異能を何度も使い、飼い慣らす事で本来の力を使える。という事が資料に書かれています。」
「其れは……確かに強力な異能だな。何故ここに居るのか不思議なくらいだ。」
そう云いながら、煙管に火を入れた。
余りにも危険な異能だ、俺の異能とは格が違うというのは聞くだけで十分に理解出来るほどに。
「私もよく判っていませんが、Aさんがここに来たいと云ったようで……」
「其れに坂口先輩の旧友という事もあり、信頼を置かれているのが主な理由だと思います。」
「へえ。随分信頼を置かれているな。」
俺は煙管を吸い、煙を吐いた。
「……信頼を置いていたのは坂口先輩だけではありません。私も、綾辻先生もです。」
「───其れすらも操られ、利用されている可能性があるだろう?」
俺はそう云うと、彼女は目を開いた。
何を云われたのか理解していない顔だったが、理解すると信じられない、と云う顔で俺を睨んだ。
幾ら凄まれようと俺には知った事では無いし、客観的に判断した迄だった。
「……確かにAさんは脅威的な存在です。ですが、彼女は、人を操り利用するメリットはありません。」
「ほう。何故だ?」
また、煙を吐く。
どうしてか軽い耳鳴りがした。
何かを思い出しそうだが、手が届かない。微かな苛立ちに似た思いが腹の底で渦巻いた。
「彼女がここに来た理由の1つは
────殺されたかったからです。」
……その言葉を聞いた刹那、頭蓋に亀裂が入るかと思うような激しい痛みに襲われる。
思わず眉を顰めた。
普通の頭痛とは異なる、頭を締め付けられる痛みは今まで体験した事が無い感覚だった。
ひとつの声が、脳に響き渡る。
《『────君の異能で殺してくれないか?』》
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