第七話 忘却の異能 ページ31
*
「辞めるって云ったんです!何で止めないんですか!」
「俺は彼女の事を覚えていない。彼女も忘れろと云った。なら互いに其れでいいだろう。」
俺は犬の様にワンワンと吠える辻村君を説得するために、何度も口論を続けていた。
どうでも良かったのだ、相手が其れを望んでいないなら放っておけば良い。其れに俺は去るもの追わず主義だ。
新しく買った本のページをパラパラと捲ると、辻村君が先程より静かになった。落ち着いたか?と顔を上げる。
「っ───綾辻先生の莫迦!事件の謎は判っても女心の1つすら判らないんですか!!」
女心?と思い、口を開こうとした。
開けなかった。
───頭を何かで殴られたかの様な衝撃があった。先程の言葉には其れ程のダメージはなかったが、何処かで聞いた事のある様な。
いつの日か、酷くショックを受けた気がした。
「……男に女心を理解しろと云うのも難問だろう。」
「そうですけど!でも!」
「五月蝿い。本当に何時までも田舎の中学生だな君は」
溜息を吐く。
先程の衝撃は何だったのだろうか。
なにか心当たりがある様で、何も思い出せない。
「……彼女の事について教えろ。異能に勝てるかは判らないが。」
「!はい!」
そう云ってやるとすぐさま元気を取り戻し、少しだけ俯いていた顔が上がった。
「彼女はAAさんで、特務課に監視されてます。自ら特一級危険能力者にしろと申し出たとか……」
「その後綾辻探偵事務所で過ごしていましたが、15歳になると2階で過ごしています。元々はポートマフィアの首領補佐でした。」
ほう。と答えるが、何も思い出せそうになかった。そんな経歴を持っているなら、どう考えても印象深いはずだが……やはり、異能を破ると云うのは無理そうだ。
「彼女の異能力は?」
そう訊ねると、辻村君はゆっくり口を開いた。
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