第六話 忘却の異能 ページ30
太宰は驚いている様子だった。驚いて声も出ない、とはこの事だろうか?
驚くのも無理は無い。太宰を頼った事は中々無かった。プライドが其れを許さなかったからだ。
『……間接的に触れる事で異能が発動してしまう相手が居てな。どうやら私の異能は使えないようで、太宰の力を借りようとしたんだ。』
「……珍しい。それで私の力を借りに?」
まるで疑っているような訊ね方で、私は思わずぶん殴ろうかとも考えたが、軽く受け流されるのは明白だった為、止めた。
『嗚呼。本当に君の力だけは借りたく無かったが……。』
きっと私は苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう。
太宰はゆっくりと口を開いた。
「ふふ。昔に人間失格をお互いに使ったらどうなるか、と実験したら特異点が発生した事があったよね。」
『嗚呼。互いに発動すると、相手の異能を先に打ち消そうとし、何方の異能も消えた。その状態だけは異能が効くようになったんだったな。』
「アレはいい実験だったね。」
ここで漸く、私は太宰の思惑を悟る。
『……太宰。話をそらして、珍しい私の言葉をもう一度云わせようとしているだろう。』
「バレた?……仕方ないなぁ。手を出して。」
『君に触れられると、異能が使えないからなんとも形容出来ない気持ち悪い感覚に陥るのが本当に不快だ。』
そう云いながら、私は手を出した。
───太宰はその異能が無効化出来ない筈では?と思ったかい?
太宰は私に触れた。
青い文字が浮かび上がる。
“───恥の多い生涯を送ってきました。”
《人間失格》
予測通り、異能が発動したのだ。
『……助かった。』
そっぽを向いてそう云うと、とても嬉しそうな太宰の声が聞こえる。
「もっと頼ってくれていいんだけれどねぇ。」
『五月蝿い。』
素っ気ない返事をする。
───嗚呼、どうして異能が発動したのか、って?
私の異能無効化は“間接的では発動出来ない”。
だが、太宰なら“間接的でも発動する”事が出来る。
理解出来たかい?──太宰は服の上から私に触れたのさ。
「これから事務所に戻るのかい?」
『……いや、綾辻探偵事務所は辞めたんだ。』
「え?」
『保護は4年契約。行く所も無くさ迷っていたんだよ。』
「其れって真逆……」
『ふふ……どう思う?』
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