第三話 忘却の異能 ページ27
「綾辻先生!無事でしたか?!」
外で待機していた私は、急いで綾辻先生の元へ向かった。
「ああ。天井が崩れただけだ。犯人は事故死したのも確認した。」
「そうですか……」
「……?Aさんは何処に?」
私はAさんが居ない事に気がついて直ぐに綾辻先生に訊ねた。綾辻先生は少し悩むと、口を開いた。
「先程の人質になった君の部下は特務課へ帰った。」
私は返ってきた答えが理解出来なかった。綾辻先生の元に部下など向かわせていないからだ。
「えっと……何の話です…?」
「……矢張り、彼女は嘘をついていたか。」
「どう云う事ですか。」
私は何があったのか判らないが、中で何かがあった。と云う事だけは理解した。生暖かい嫌な風が吹く。
「忘却の異能に巻き込まれた。俺は彼女について何も知らない」
「は?忘れたって……で、でもAさんは!」
そう云った瞬間電話がなる。私は名前を確認するとすぐさま電話に出た。
「……もしもし!」
『やあ。辻村さん?元気かい?』
「!そ、そんな事を云ってる場合じゃないんです!貴方は綾辻先生に忘れられているんですよ!」
『知っているが……別にいいだろう。このまま彼奴には忘れさせてやってくれ。』
「へ?何を云って……」
私は判らなかった。どうしてAさんがそんな事を云うのか、その次に発した言葉さえ、私は何も理解出来なかった。
『私は綾辻探偵事務所を抜ける。』
「な、何でですか。Aさんは異能無効化出来るんじゃ……!」
『無理だ。』
「……え?」
『私が異能にかかった。既に自分自身でかかった異能を解く事は出来ない。』
「そ、それじゃ……」
『君も私のことを忘れてくれて構わない……またな。』
そう云うと通話からは無機質なツーツー、と音が聞こえてきた。
「……先程の女性か?その様子だと異能解除は厳しそうだが。」
「……ま、まだ何か方法がある筈です。」
「異能無効化が出来ない、そして異能をかけた本人も死んだ。となると希望が薄すぎる。」
「だって……Aさんは…」
────天才だから。
だからきっと、之も解決してくれる……筈ですよね。
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