第百四話 記憶 ページ19
────滝に落ちた。ということは何故か覚えている。
私は、恐らく川に流されたんだと思う。
これを聞いた人は、何故曖昧にしているのか?と思うことだろう。
私だってまだ理解出来てないのだから仕方が無い。
ねえ、私はどうして
──────滝に落ちた??
記憶が無い。だが、完璧に無いという訳でもない。
私は名前も年齢も家の住所だって覚えてる、でも、こんな服を私は持っていただろうか。
川の近くの土手で私は自分の服を見た。
ふと、自分の首に手を当てると、金属の音が聞こえる。
『……チョーカー、?』
何故私はチョーカーを着けているのだろう。
私の趣味では無い、そもそもアクセサリーは貰い物以外持っていないのだ。
そこで私は川に映っている自分の姿を確認した。波紋が邪魔をし、よく見えないが1つ分かったことがあった。
『……誰?』
そこには、私の知っている私は存在しなかった。
年齢は私と同じ18くらいだろうか?
私よりも、顔が整っていることだけは判る。
『一体、どういう事?』
そんな事を考えていると、後ろから声をかけられた。
「あの、大丈夫ですか……?」
……聞き覚えのある声だった。
まるでブリキの玩具のようにゆっくりと後ろを振り返る。嘘だと云って欲しかった。これは夢だと。
「……あの、?」
私は彼を知っていた。
ボロボロの服で、外にも関わらず裸足……そんな白髪の少年。
────中島敦。
私が好きだった、文ストという物語の主人公だ。
『……其の心配の言葉は其方にそのままそっくり返させて貰う。』
簡単に口から言葉が出てきた。
カッコつけた様な口調だ。
初対面相手に敬語を使わないなんて……と思ったが、今から変えてももう遅く、その口調のまま通すことにした。
「アハハ……でも、困ってる様に見えたから。」
『……とんだお人好しだね。ヒポクリットかと思ったが。』
ここに来る前の私じゃ考えられない口調だ。
ヒポクリット??偽善者という意味だが、そんな言葉をどこかで覚えたような記憶もない。
「──ヒポクリット?」
『……知らないなら知らないでいい。1から説明する程君みたいに私は優しくないからね。』
これは、推しの“綾辻先生”の影響だろうか……私は溜息を吐いた。
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