第百二話 動揺 ページ16
私は武装探偵社に向かった。
目的地はあともう少しだ、太宰を無理矢理連れ出す手段は昔から何パターンも考えている。
失敗しても、成功するまでやるだけだ。
武装探偵社の前に着くと、私は深呼吸をした。
そして、扉をノックしようとした瞬間。
「────矢張り、此処か。」
背後から聞こえた声は幻聴だと錯覚してしまうほど、その声には聞き慣れていた。
どうして、と思考の渦に飲み込まれる。
冷や汗が止まらない。
振り向くことは出来なかった。
だって、この声は───
「俺から逃げるとは、君にも調教が必要か?」
『あ、やつじ、先生……?』
「ああ。帰るぞ、A君。」
手を引かれた。
何故判ったんだ、バレてなかった筈なのに。
手を引かれながらヨコハマの街を歩く。
「今日はいつもより感情が判りやすいな。珍しく動揺を表に出している。」
当たり前だ。理解が追いついていないのだから。
『な、何で、?』
「……君の異能は人を飼い慣らすだけじゃない。そうだろう?」
そう言って、綾辻先生はこちらを振り向いた。
心臓が跳ねた音がした。
心拍数が上がっている。
『何時から、』
私は俯いた。顔を見られたくなかったから。
「君の異能は“異能も飼い慣らすことが出来る”。それに確信がついたのは、君の死体が発見されなかったときだ。」
『……どうしてそう思った。』
「A君が異能は人を飼い慣らす、と気づいたのは母親を操った日では無い。その日の日記は操れると確信があった様な言い方をしていた。」
『……』
思い返すと確かにそうだったかもしれない。ほんの少しの、僅かなミスだ。
「君は死にたかった。でもジサツをすると自身の豪運により阻まれる。君は異能を発動しない様にずっとこの4年間使わなかった。」
「───俺によって確実に殺されるため。」
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