第百一話 手段 ページ15
……拷問をされた事を知っているのは確かにAだけだった。
「……俺がされた拷問の内容は?」
『ふむ、君が小娘やら餓鬼だと云うから返り討ちにしてやった時には、君をドラム缶に腰から入れたんだ。』
『最初は誰が謝ってやるか!と喚いていたが、重力操作が手放された君は重力に負け、ゆっくりとドラム缶に嵌り、ついには耐えきれなくて私に謝罪の言葉を述べたね。』
彼女が云った言葉は何も間違えていなかった。
中也は……それを知ってるのは確かに手前だけだ。と呟いた。
「死んだんじゃなかったのか?」
『私だって死ぬつもりだったさ。ついに昨日殺されるとこだった。』
『異能が発動しなきゃ、あのまま死ねてたさ。』
中也はああ、と納得した声を上げる。
「ポートマフィアに戻るのか?」
『生憎、最終手段の宛がある。』
『────武装探偵社さ。』
何故か寂しさを感じる笑顔で、彼女はそう云った。
「……アイツの所か」
『私だって行きたくないよ。死ねなかったんだから仕方がないだろう。』
「……その最終手段は昔云っていたやつか?」
中原中也がそう訊ねると、自称天才は目を丸くした。
『嗚呼、特異点が起こる可能性だってある。だが、私が死ぬにはこうするしかない。』
『───私に対し、太宰は異能無効化を使ってもらう。そしてその状態で私は自害する。』
「……太宰は今は誰も殺さねェ、頼んで断られないといいな。」
『身体さえ借りられればいい、そこに思考は要らない……騙してでも死んでやるさ。』
そう云う彼女は、4年前ポートマフィアの秘書として在籍していた姿と重なった。
何も映さない黒い瞳。
「……相変わらずだな、死への執着も変わらねェ。」
『引き止めてくれないのかい?』
そう云ってクスクス、と笑っている声が聞こえる。
「引き止めた所で不可能な事は、15の時から判ってる」
『ふふ、そうだね。』
「手前は今まで何処で身を隠してた?」
『異能特務課。誰にも邪魔される事がない最高の場所だったよ。』
「そんなとこに居やがったのか……」
そんな事を云っていると、彼女は身を翻して歩いていた。武装探偵社の方向だ。
『じゃあね。もう二度と会わない事を祈るよ。』
「……」
中原中也は手を振る彼女の後ろ姿を見つめていた。大宰の様な雰囲気を纏った彼女の姿が見えなくなると、ため息を吐く。
「……ありゃあ当分死なねェな。」
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