第九十八話 徹夜 ページ12
安吾は悩んでいた。
深夜にも関わらず部屋で一人、資料を片手に睨めっこをしている。
───彼女が亡くなってから3日が経っていた。
溜息が辺りに響く。吐いた人は一人しかいない。
「……これも貴方の筋書の通りですか？…Aさん。」
安吾はぽつり、と独り言を呟いた。
これにはれっきとした理由があった。
……Aさんの遺体が見つからないことだ。
これではまるで、京極の時と同じだ。
もしかしたら化けて出てくるかもしれない。そう思うほど安吾は疲弊していた。
遺体は滝に落ちた。霧によって隠れていた為、その最期の瞬間は誰も見届けることは無かった。
堕落論を使い、物の記憶を読み取っても霧により真実と共に全てが覆い隠されているだろう。
もしかしたら、という希望があった。
しかし、滝に落ちてはAさんも無事では済まないのは誰もがわかることだった。
Aさんの異能力は、人を飼い慣らすこと。そんな異能では異能力のコンフリクトは生じない。
……つまり、為す術が無いのだ。
あの滝は試しに落ちてみよう、だなんて気にさせてはくれない。更に、滝の裏に何も無いことは京極の事件で皆が知っていたことだ。
周りの森も京極の事件の際全て切られているため、協力者が居ないことも、何かを仕掛けることも出来ない。
それでも、見つからない遺体のことを思うと期待せずには居られなかった。何処にいるのか尋ねたい程には疲れていた。
そんなことを考えていると窓から陽が差し込む。
今日もまた、夜明けが来た。
坂口安吾は陽の明かりに気がつくと、またひとつ、溜息を吐く。
彼も、今日もまた徹夜だ。
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