第八十八話 豪邸 ページ1
*
私たちは一軒家に向かった。
その家は母親と息子の二人暮らしの筈なのに広く、まさに豪邸。
今も誰か住んでいると誤解するほど生活感があり、事故物件とは思えないほどそれは高級住宅地に馴染んでいた。
私、辻村深月が先頭にその家の鍵を開ける。
中に入ると、清掃には来ているらしく綺麗な状態のまま残されていた。
リビングへ向かうと圧倒的存在感がある物が目に入る。
いくら清掃しても消えなかったのだろう。それは床に染み付いていた。
Aさんはそれをじっと見つめる。
その瞳は綺麗だが、赤黒い色の反射が写っていた。
「……母親は正面から包丁でお腹に一突きだった様です。」
私は綾辻先生とAさんに遺体の写真を見せた。
『……動機は?』
「不明です。父親は既に亡くなっていて、母親も近隣住民に聞いても大して人柄が分かりませんでした。」
「母方の親族に伺っても恨まれる性格では無い、その為心当たりが無いと。」
「ふむ。」
先生はそう言うと廊下を出る扉を開けた。
「どこ行くんです?」
「加害者と思われる息子の部屋だ。」
答えを言うと直ぐにスタスタと歩き出してしまった。
何時も先生はこうだ……と思いながらその後ろを着いて行く。
Aさんもそれに気づき、ハッと顔を上げてパタパタと後ろを着いて来た。
*
加害者の部屋は、外から鍵が閉められる様になっていた。中に入ると内側から鍵を開閉出来ないことに気がついた。
中を見ると、壁は本により埋め尽くされていた。
クローゼットがある、机がある、ランドセルもある。
逆に言えばそれ以外の物は無かった。
事件当時の息子の年齢は小学四年生らしいが、到底その様に見えないほど置かれている参考書は困難だった。
上げればキリが無いほど本が積まれている。
文学、言語学、数学、歴史学、地学、化学、物理学、天文学、生物学、哲学、心理学、統計学、デザイン学、鉱物学、工学、農学、医学、薬学、政治学、ゾロアスター教学
ゾロアスター教学……???
聞いたことが無い言葉に2度見し、思わずその本を手に取り、表紙を見た。
「ゾロアスター教とは歴史上最古の宗教だ。」
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