第三十六話 火蓋 ページ38
「さて、行くとするか。」
其の言葉を聞いて、どちらへです?と辻村深月は聞き返す。
「決まっているだろう。事件のある場所へだ。俺は探偵だからな……そして君はこれだ。」
「もちろん私は相棒……って、何です、これ。」
彼女の手にとある物が置かれた。
「────見ての通り、首輪だが。」
「はああ!?買ったんですかこれ!?」
天才にも予想外だったのか、ツボに入りゲホゲホと咳をしながら笑っている。
彼女のこの笑い方はとても珍しいだろう。
『っ其れを、君が買ったのかい?、っ、ふは、っふふ…やばいっ面白い…!…っふふふ』
しゃがみ込んで顔を隠しながら笑っている姿は、珍しく年相応に見える。
「瓦斯部屋で気付いたのだが、君には首輪は善く似合う。外に出るときは常に之をつけろ。」
「報告書の角で頭殴りますよ!」
彼女は怒り、首輪を押し付けるように返した。
「そしてA君には此れだ。」
そう云って綾辻行人が取り出したのは一つの小包。
未だに笑っているAに其れを見せると、彼女の笑いが止まった。
『流石に之で私の分まで用意されていたら笑えないな……』
そう云いながら彼女は小包を受け取り、丁寧に開けると……彼女の動きが止まった。
辻村深月が疑問に思い、小包を覗くと口を開く。
「────チョーカー、ですか?」
「ああ。そうだが。」
そのデザインは黒く細い紐を二回巻いたかの様な見た目で、ワンポイント小さい菱形の飾りがついている。プレゼントとしてはセンスがいいと云えるだろう。
「其れは偶々、君に似合いそうだと思って買っただけだ。厭なら着けなくても良い。」
そう云うと彼は顔を背ける。
『……綾辻先生からの初めてのプレゼントだ。着けてやっても良い。』
口を尖らせ、子供の様に偉そうな態度を取るが、綾辻行人は笑った。
「───君を漸く飼い慣らせた。」
『其方が飼い慣らされたの間違いだろう?』
彼女も同じく笑った。とても幸せそうに────。
────ゲームは変わったと綾辻行人は云った。
その通りだった。京極との勝負は、これから更に苛烈な一段上のステージへと姿を変える。
頭脳と鬼謀の戦い。策略と謎の輪舞。
そして勝負は、あの夕刻、あの滝の上へと続いていく。
どちらかが死ぬしかない。究極の頭脳勝負。
その戦いの火蓋が今日この日、切って落とされた。
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蒼月(プロフ) - ┏( .-. ┏ ) ┓ウリャさん» コメントありがとうございます!面白いと言って下さりとても嬉しいです…!モチベが無くなっていた為、とても助かりました。王子さま良いですよね…私もこの本が大好きなんです…! (9月4日 17時) (レス) id: 371a01970c (このIDを非表示/違反報告)
┏( .-. ┏ ) ┓ウリャ - めっちゃ面白いです!!!しかも異能力名が自分もめっちゃ好きな本なので更に興奮(?)しました。有難う御座います!!! (9月4日 0時) (レス) id: 2c963f022d (このIDを非表示/違反報告)
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