二十八夜 ページ28
「オヤジ……！！」
「そんなに取り乱すなんてなぁ、お前らしくねえ
ぜ………ちったあ落ち着きやがれ」
「……ッ……あのなあ……！」
しばらくの間、二人は共に睨み合っていた。実際にそう感じたのは、サッチだけだったかもしれないが。
ピリピリとした空気が、二人を中心にして辺りに広がっていく。親子喧嘩。そんな言葉では言い表せられないほどの、強烈なそれ。覇気だ。
比較的若い男たちはバタバタと倒れていき、慌てる者がいるなか、隊長たちだけは、それを静かに見つめていた。
先に折れたのは、サッチの方だった。視線を反らし、まぶたを閉じる。一呼吸置き、もう一度目を合わせた。
サッチは、最初こそ焦りを隠しきれない様子だったが、船長のその一声により、少しずつ冷静さを取り戻しつつあったようだった。
「……オヤジ、なにかしら心当たりでもあるんで
？」
「ひとつだけだ。だが、今回は確実にそれだな」
_____神隠しだ。数秒の間を置いて、そう言っ
た。
「神隠し……？って、なんなんだ、一体！？」
その言葉を聞き、一人の男が口を開いた。イゾウだった。険しい顔で、額に汗を滲ませている。
「その名の通り、神が人間を隠しちまうことだ。
でもオヤジ……なんで神隠しだと………」
「この島にゃあ、少し因縁みてえのがあってな」
「因縁？」
船長の視線の先にある森を、サッチ、イゾウを含めた船員たちは見つめ、皆、なんともいえないような顔をしていた。
___しばらくして、森の中から何かが近づいてくるのが確認できた。ゆっくり、ゆっくりと、こちらに向かってまっすぐ歩いてくる。
よく目を凝らすと、それがライオンのような猛獣であることに気づく。敵意はないようだった。
「……てめえらァ、船に戻っておけ」
「……チェンは？」
「大丈夫だ。なんとかする」
ここからは親のやることだ。と、その猛獣に近づいていく船長の背中を、サッチはその場を動かず見つめていた。
不意に、自分の肩を叩かれていることに気がつく。
「サッチ、心配なのは分かるが、オヤジのこと
だ。大丈夫だよい」
「………分かってるってんだ」
後ろ髪を引かれるように、ずるずると足を引きずりながら船に乗る。
オヤジを見ると、まるであの猛獣と話し込んでいるかのようにも見える。いったい、何をしているのか。自分には分かるはずもなかった。
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作者名：シヲリ | 作成日時：2019年6月19日 22時
