ある子猫のお話 (ページ29)

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二十九夜ページ29

「____よお……久しぶりだなあ、ヴァハグン……」

「久しぶり～エド、なんか老けた？」

「ふざけてんじゃねえ、またお前ェの仕業か？」

　波の音にかき消されるほどの声量で、二人の人間の声が響く。しかし、砂浜には、ドでかい猛獣と大男しかいない。どうやら声の片方は猛獣が喋っているらしい。

「いやあ～ごめんね、今回もボク………」

「いちいち腹が立つ喋り方だぜ、言い訳があるん
　なら聞いてやる。くだらなかったら殴る」

「ひえ～怖。ちゃんと理由あるから～言い訳じゃ
　なくて～」

　猛獣の方はヴァハグン、大男の方はエドと呼ばれている。以前から顔見知りだったらしい二人は、そのまま話を続けながら森の中へと入っていった。

　船の上から心配そうに見つめる息子たちの視線を背にして………

「____チェン………」

「てめえ、やっぱり幼女趣味だったのかよい」

「違えよパイナップル野郎」

「パイナップルうめえだろうが、馬鹿にすんなよ
　い」

　一見、仲の良い者同士の日常会話に見える。だが実際は、心配でどうにかなりそうな片方の精神を落ち着かせるため、二人で悪態をつきあっているだけだった。

「……珍しいじゃねえか、サッチ。てめえがそんな
　に入れ込むなんてよい」

　はあ、とため息をつき、サッチは手すりにもたれ掛かった。

「……………なんか、あいつ見てると懐かしくなって
　くるんだよなあ」

「懐かしい？」

「ああ……」

　前にどこかで会ったことでもあるのだろうか。どうやら本人にもよく分かっていないらしい。今になって、「何でだろう？」と首を傾げている。

「……まあ、オヤジが何とかするって言ってんだ。
　俺たちゃ、待つしかねえよい」