200話 ページ39
楚軍を包囲する秦軍から、楚の歌が聞こえてきた
歌声は四面から聞こえ、まるで兵士達に訴えかける様な…悲壮な物であった
これを聞き、楚の兵は涙を流した
「あ、あの歌は…故郷の…」
「それにしても…楚の言葉が上手すぎる…秦軍は我等の故郷を占領したのか…」
「ただでさえ飢えているのに、故郷の兵にまで攻められては勝ち目はない」
「もし俺達が死んだら、残った父母や妻子は誰が面倒を見るのか…」
そして…楚の兵は決意する
「…逃げよう」
「え？」
「このまま項燕様に付いてたって、未来はない！」
「それに…歌を届かせているって事は、もしかしたら我等を助けてくれるつもりかもしれんぞ！」
「こういうのは早い方がいい！妻子と父母の為に…ここから逃げるんだ！」
「ま、待てよ！きっと項燕様が何とか…」
一部が止めようとする
「項燕様に何の策があると言うんだ！現に酒ばっか、かっ喰らっているだけじゃないか！」
「項燕様は媧燐様の進言を聞かなかったから、こうなったんだ！」
「このままでは、殺されなくても、飢死しちまうよ！」
楚兵達は次々に逃げ出し、楚軍は急速に瓦解していく
上官達も止めようが無かった…上官の一部にも賛同している者がいる上に、止めようものなら殺されかねない雰囲気であったからだ
兵の逃亡は、桓温ら楚軍将校も知る事になる
桓温らは項燕に事態を知らせるも、項燕は泥酔して起きなかった
温「何時頃から飲まれていたのだ…！」
「それが…日の出ている内から虞恋様(項燕の妻)と…」
温「クッ…！こんな時に…何て事だ…！」
桓温達は、項燕の様に嘆息した
温「9割以上の兵が逃げてしまった…このままでは項燕様は勿論、我等もひとたまりもなく虜となってしまう…そこでだ…我等は自身の進退に付いて決めねばなるまい」
翼「…？」
温「項燕様に殉じるかどうか…だ。今なら逃げる雑兵に紛れて逃げ出し、後日再起を図るなり、秦に入って楚人の保護が出来る」
麗「大将軍を見捨てるのですか！？」
温「ここで全員討ち死にするのは、草木が根絶やしになるような物で、全く益がない。項燕様には一筆書いておけば、理解して下さる筈だ」
周「そうだな…俺達は生き残り、楚の復活に賭けよう」
翼「俺はそうは出来ねぇ…大将軍に殉じる」
麗「翼と同じ意見だ」
温「謝安殿は？」
安「やはり私は、王族や楚人の権利向上を最優先に考える…故に、秦に降る」
温「では…それぞれの考えで動こう」
将校は行動を開始した
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作者名：やなゆ | 作成日時：2022年4月29日 9時
