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「ここをやめて他の高校に進学?それはまたどうして」
中学3年生の冬。事情を何も知らない教師は俺からの突然の相談に狼狽えていた。
「松村君、君は成績も良かったし勉強について行けていないわけでもないだろう?他の進学校に進学したいなら先生は止めるよ。ウチもこんな優秀な生徒は他所に逃したくないからね。…あぁ、もし留学とかを考えているなら海外の高校じゃなくてもウチの制度で───」
畳み掛けるように話され、気圧される。
さっきまで口に出そうと用意していた言葉はすっかりしぼんで全く出てこなくなってしまっていた。俯いて口も開かない俺に痺れを切らした教師は「とりあえず、もう一回考えてほしい。高等部に上がったら今の考えだって変わるかもしれないだろう」と言って先に進路指導室から出て行ってしまった。
一人きりになった途端、糸が切れたように机の上に突っ伏す。鼻がツンとして顔全体が熱くなる感覚がする。他の高校に行きたい理由は別にもっとレベルの高い所へ行きたいだとか、そんな大層な理由ではなかった。
6か月分の定期代を無駄にして、徒歩で家路へ向かう。電車にはもうしばらく乗れていなかった。
「おかえり〜」
「ただいま」
「先生に言ってきた?」
「うん。でも考え直してほしいって」
「そっか。そりゃそうよね。お母さんからも学校に話しておくから」
「うん」
部屋に戻ってから、バタリとベッドに倒れ込む。今や北斗の心を落ち着かせることが出来るのはこの部屋だけだった。
小学生の頃から塾に通って、必死に勉強して入った学校だった。勉強一筋で付き合いの良くない俺は、同級生からの誘いを毎回断っていたせいで、卒業する頃には友達は1人もいなくなっていた。
中学に入ってからも友達はなかなか出来なかった。別にいじめられていたわけでもない。ただ、話しかけてもよそよそしい態度を取られたりすることはあった。
「松村くんってなんていうか話しかけづらいよね。やっぱり頭良い人は僕らみたいなのとは喋りたくないのかな」
同級生から気を遣われていると気付くのにそう時間はかからなかった。
教師からも過剰に褒められたり、逆に若い芽を摘もうと、過剰に厳しくされたりと、普通の対応をされない。
逃げ場を無くしたストレスだけが積もり続けていた。
クラスの雰囲気は悪くない。だけどその中で俺だけが浮いていたような気がする。
結局中学の3年間は、誰からも下の名前で呼ばれることはなかったし、友達は全く出来なかった。
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作者名:とほほ〜 | 作成日時:2023年5月8日 1時